Entries

エペペ

ここで前振りしながらほったらかしだった、ハンガリーの作家カリンティ・フリジェシュの息子、カリンティ・フェレンツの代表作。東欧的なな不条理小説でもあるし、ユートピア小説ならぬ反ユートピア小説(Dystopiaってヤツね)とも呼ばれるらしい。東欧というだけで勝手に政治色をつけてしまうのも悪い先入観で、そういう背景が頭をチラチラ横切るけど、そうすると何だか暗い気持ちになるので、とにかくあり得ないだらけの設定をシュールな幻想文学だと割り切って読めば楽しめたのかも。。。
エペペエペペ
(1978/12)
カリンティ・フェレンツ

商品詳細を見る
最初の1ページで既にあっけに取れる設定がなされる。主人公の言語学者ブダイは学会に出席するためにヘルシンキに向かう飛行機に乗るはずが、間違えて見知らぬ国に到着する。世界中の言語に精通する彼の知識を持ってしても、話されている言葉も文字も全く理解できないし、どの国の言語も通用しない。おまけにジェスチャーも通じない。そしてとにかく人が溢れている。ホテルも通りもどこもかしこも、流れに逆らっては弾き飛ばされ、何をするにも先の見えない行列に並ばなければならない。Communication術を完全に失った彼は食べることさえおぼつかず、脱出する術さえ見つけ出せない。この時点でまだ本はせいぜい30ページ程度。この後は彼のDis-communicationとの葛藤と、溢れかえる大衆を辟易するほど繰り返し語り続ける。無気味さやグロテスクさはあるし、恐怖感も悲喜劇の様相もある、ただ異常な状況に翻弄される悲劇の主人公というよりは、どう考えてもサバイバル手法としてはかなり頓珍漢で無様なブダイの試行錯誤に何だか苛々してくる。

カリンティ・フェレンツ自身が言語学を学んでいるので、言語学者ブダイが試み、解説する言語分析は蘊蓄ネタとしては結構面白かった。でもジェスチャーさえも通じないといいながら、唯一心を通わせた、宿泊しているホテルのエレベーターガールとのセックスや、終盤ブダイが巻き込まれる暴動は世のどこにでもあるような武器と兵士とリンチと騒乱で、ここのセンスは共通なのね?と突っ込んでみたくなる。

何しろ会話が成り立たないのだから、この本にはDialogueというものがなく、ブダイの独り芝居と、彼の目を通した異常な世界ばかりが延々と続くのだけど、結局Communicationというのは言語の問題ではなく、Communicationをとる意志があるか否かってことなんじゃない?彼自身にその意志があったのかどうか私は疑うなあ、つまり、後の解説で翻訳者が、ブダイはある種現代におけるヒーローだと言っているけど (昔の強きを挫き弱きを助ける正義のヒーローとは全く違い、凡庸で自ら運命を切り開くタイプではない、と断っていはいるが) それは私にはどうにも合点がいかない。彼は一種のインテリ層で、自分が置かれた現状の認識も出来ず(金が底をつき、揚句ホテルを追い出される、折角手に入れた金もパッと使っちゃう)、その打破のためにやることといったら、ひたすら得意の言語学的分析で、文字や言葉を捏ね繰り回すことに終始しているとしか思えない。そしてエレベーターガールは言葉に頼らず彼を理解しようと努めた唯一の登場人物なのに、その彼女を ”愛してしまった” と言いながら、この異様な世界から脱出するために利用しようとする(でも失敗)。

最後は、川を見つけたブダイがその先には海があり港があり船がある、と希望を見出だし歩き出すところで終わるのだけど ”いや、アンタのことだから、そうは問屋が卸さないでしょ” と意地悪な気持ちが沸々湧いてきてしまった。
関連記事
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://besideabook.blog65.fc2.com/tb.php/108-b4c859de

トラックバック

コメント

[C465]

こちらで知って興味を持ち実際に読んでみて、レヴューのかなりの部分に同意します。典型的な頭でっかちのインテリ主人公の空回りが全編を通して続いているようです。
しかし個人的には、ロシア東欧に個人旅行した際の心細さがこの小説に重なって妙に親近感も覚えました。特にホテルフロントでパスポートを出したら返してもらえずに一晩不安に過ごした体験があるので、その部分はブダイに共感しました。

[C466]

結構前に読んだので、思いだせないかと思いきや、これはよく覚えていました。
ロシア東欧に個人旅行された時のエピソードはなるほど、と思いました。
お父さんの作品、http://besideabook.blog65.fc2.com/blog-entry-46.html 『そうはいっても飛ぶのはやさしい』もお勧めです。


  • 2015-12-13 12:43
  • Green
  • URL
  • 編集

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

Green

Author:Green
夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

Calendar

<
>
- - - - - - -
- - - 1 2 34
5 6 7 8 9 1011
12 13 14 15 16 1718
19 20 21 22 23 2425
26 27 28 29 30 - -

全記事

フリーエリア

フリーエリア