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他人まかせの自伝

予告に続いて本番。ちょこちょこしか読めない平日に読んだのでは勿体ないので、しっかりのめり込み、一気に読める週末までグッと我慢していた。宣伝も兼ねて再び本のリンクも貼る。本来私は小説が好きなので、好きな作家と言えども裏話やエッセイの類はあんまり興味がない。でもTabucchiは別、別格。その別格の作家が現役だというのは、私の場合奇蹟に近い。この先また新しいものが創造されるわけだ。原題は「Autobiografie altrui - Poetiche a posteriori」
他人まかせの自伝――あとづけの詩学他人まかせの自伝――あとづけの詩学
(2011/05/25)
アントニオ・タブッキ

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目次から・・・
『レクイエム』について  
『ペレイラは証言する』について  
『遠い水平線』について  
『ポルト・ピムの女』について  
『いつも手遅れ』の周辺で

全部読んでいる、しかも『いつも手遅れ』は、邦訳がないから英語で読んじまったこれ。 一応エッセイなのだろう、でもエッセイだとしても夢と幻を行き来するような彼の小説のようなエッセイで、まるで一つの作品。ありがちな創作の裏話ではなく、本は完成し出版されてもなお残る彼自身の内なる思索の続きのよう。この本はもしかしたらこれら小説の続きで、虚構の話しなのかも知れない。『いつも手遅れ』 の写真のエピソードなどは私には作り物に思える。
「本は、それが終わるところで終わっているのでは決してありません。本は膨張を続ける小さな宇宙なのです。」

Tabucchiが好きな理由なんて考えたことはなかった。ストーリーが面白いとか、扱うテーマがどうとか、発想がすごいとか、そんなことではないことだけははっきりしていたけど、今回1つわかったこと。彼の本が語る声が好きなんじゃないだろうか?
「・・・声。どうやったらそれが再現できるだろうか。紙に書く言葉は、声を発さない。言葉はあの声を追い求めるが、叶うことはなく、その響きをつかむには決して至らない。われわれが相手にしているのは抽象であり、抽象は翻訳しようがないのだ。」 

『レクイエム』 は彼の母語イタリア語ではなくポルトガル語で書かれ、それはポルトガル語でなくてはならなかった、とどこかで読んだことは覚えている。そしてTabucchiはこの本を自身でイタリア語に翻訳したくないと、友人にそれを頼んでいる。事の始まりは、Tabbuchiが夢で父親と会話したこと。夢の中で二人はポルトガル語で話している、父はポルトガル語なんて知らないし、二人は常に故郷トスカーナの言葉で話していたのに、である。この夢を夢のままポルトガル語でメモした後、彼はそれをトスカーナの言葉に置き換えようとして、全てを ”損ねてしまった”。その後この「文学における多言語使用」と呼ぶ現象を自身で解明しようと試みるが、結局堂々巡りで終わる。僅かばかりの手がかりは、「人はある言語で忘れ、ほかの言語で思い出すことができる」というある言語精神分析の論考。もうひとつは、Tabucchiが父を、父が彼をどう呼んでいたか、というプライベートでの二人の関係。その小さな呼びかけの言葉から生まれたかもしれないのが 『レクイエム』 らしい。
「ときとして、一音節のなかにはひとつの宇宙が広がっていることもある。」

虚構を構築するのが彼の文学なら、時間軸は一直線に流れる河にはならない。「現実というのはそれ自体が幻想的」、そうだとしたら、「現実を超現実に変えてしまうという文学の持てる力」と格闘することは恐ろしい仕事でもある。
「実をいうと、人間が時間を通り抜けるのか、時間が人間を通り抜けるのか、わたしにはまだよくわからない。つまり、人間が通り抜けて時間が不動なのか、時間が通り抜けるのであって不動なのは人間のほうなのか。」 
『いつも手遅れ』は返事の来ない17の書簡の集まり。書き手の誰もが気付いた時にはもう手遅れになっている。
「要するに、どれもこれも時間割からはみ出した人生なのだ。」

『ポルト・ピムの女』 の邦題は「島とクジラと女をめぐる断片」 。私がいつか必ず行こうと思っている、アソーレス諸島が舞台の本。Tabucchiはこの本を書く際に訪れて以来、再訪していないらしい。
「あの島々がまだあるのかどうかもわかりませんが、おそらくあるのでしょう。地図を眺めていると、よく見かけますから。」 
あるはずです、Tabucchiさん、私がそのうち行って確かめてきます。
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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