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庭、灰

なぜ、Calvinoとの組み合わせになったのかは知らないけれど、これに私は泣かされた。『見えない都市』はもう、持っている!でもDanilo Kišのこの本は本邦初のはず。ずっとずっと古本市場で値下がりするのを眺めつつ、半額¥1200まで下がったところで手打ち。
庭、灰/見えない都市 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集2)庭、灰/見えない都市 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集2)
(2009/09/11)
イタロ・カルヴィーノ、ダニロ・キシュ 他

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Danilo Kišは正直言うとよくわからない。

1935年、ユーゴスラビア王国のセルビア北部スボティツァ生まれ。戦争中は父の故郷のハンガリーで暮らすも、父はアウシュビッツ収容所に送られ、消息を絶つ。
第二次世界大戦後、母の故郷のモンテネグロ ツェティニェに移住した。ベオグラード大学で文学を学んだ。フランス各地の大学でセルビア・クロアチア語の講師をしながら小説を執筆した。(Wikipediaより)

今まで邦訳されたのはこの3冊だけだと思われるけど、全部読んでみてよくわからず、じゃあもう読まなければいいのに何故か捨て切れない。心に引っ掛かる何かがあるのか、わからないことが悔しいのか・・・
『若き日の哀しみ』 東京創元社
『死者の百科事典』 東京創元社
『砂時計 東欧の想像力』 松籟社

とにかく今回はゆっくりゆっくり読んだ。

Danilo Kišが生きた人生を辿ると、国籍や国境というものがいかに恣意的で政治的なものかが見えてくる。ユダヤ人と呼ばれる人々はいるけれど、それは日本人やイギリス人というカテゴリーとは別のもの。ユダヤ人は国籍上どこかに属しながら、更にユダヤ人というカテゴリーを持つ。キシュの父はハンガリー人でありユダヤ人だった。母はモンテネグロ人で非ユダヤ人だった。ユダヤ教と正教とカトリックが交じり合う中、キシュは4歳で正教の洗礼を受けさせられる。キシュの人生は流浪の旅のようだった。ハンガリーと旧ユーゴスラビアの町を転々と移動し、それらは旧ハンガリー占領下であり、旧ユーゴスラビア国であり、そして現在は、セルビア共和国であったりする。その昔はオーストリア・ハンガリー帝国を軸とした地域であり、第2次大戦時はナチスによるユダヤ人迫害、その後はソ連による弾圧、東西の壁がようやく崩壊した矢先、ユーゴスラビアは解体し内戦が勃発する。父からはハンガリー語とドイツ語を教え込まれ、母はセルビア・クロアチア語しか話せず、1979年パリへ亡命後はフランス語も話せたが、彼は母語であるセルビア・クロアチア語で生涯本を書き続ける。1989年にパリで没する1年前には、ユーゴ内戦の可能性を言及していて、セルビア人でもクロアチア人でも、そして政治体制の変化とともにユーゴスラビア人でさえなくなったキシュは、結局生涯自らの帰属先を「中央ヨーロッパ」に見出そうとしたけれど、その「中央ヨーロッパ」でさえ幻ではなかったのか?常に”他人との差異”という不安の中で生きてきた彼は、パリという都会に紛れることでその”差異”を隠そうとしながらも、生涯フランス語で執筆をせず、ユーゴスラビアにノスタルジアを感じ、一生を終える。

翻訳をした山崎佳代子さんという方はセルビア在住の詩人だそうで、巻末には彼女の解説が付く。翻訳者の強い思いの方が印象に残る解説で、なんとも素っ気無い後書きもある中で、こんなに強い思い入れを語ってくれる解説に感動しそうだった。この解説とキシュの歩んだ人生がないまま、この本を読んだら再度よくわからないまま終わったかもしれない(今回は勉強して臨んだ)。文章は本当に美しくて、普段風景描写や人物描写はついつい疎かに読んでしまう私が、この五感を駆使した表現は引き込まれるように読んでしまう。特に光の描き方、そして本からは物理的には伝えられない音や香りや味覚の表現。ユダヤ人の迫害と戦争を描いているとは思えない程、抒情的でさえある。だからこそ、あまりにもその乖離が激しく、象徴として描かれるオブジェによる比喩表現の意味するところ、時間と記憶の曖昧な描かれ方、主人公の少年アンディの視点で書かれながら、大人の詩人のような表現、これらと私の間を通訳してくれる存在がこの解説だった。

東欧という呼び名は、東西分裂が生み出した一種の人工的な地理区分で、西側諸国から見れば、東=共産圏というレッテルとして実際には扱われる。ドイツとロシアに挟まれた複雑なモザイクを生み出す国々の作品は最近読み出したばかりだけれど、その複雑さは近視眼的に見てしまうと、民族自立や固有文化の死守だの、個々のアイデンティティーを問う作品かと思いがちだけど、汎ヨーロッパ的な匂いがするのは気にせいか?下手な西側先進国にこそ自国主義に凝り固まった偏狭さがあるんじゃないかと思えてくる。

本のプロットを何も書かないまま、こんなに長くなっってしまい、再び反省。
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