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存在の耐えられない軽さ

「無知」 や 「不滅」 を読んだ後この本にたどり着くのは、なんだか今さら・・・みたいな感じがして恥かしい。映画にもなったし、タイトルのインパクトも強いし、話題にもなった。ネットで探せばレビューもうんざりするくらい沢山あり、それだけで私としてはやや反発する。しかも出だしが、「永劫回帰という考え方はミステリアスで、ニーチェはその考えで、自分以外の哲学者を困惑させた」 なんて始まり方をすると、嫌味な奴・・・とさらに反発してしまう。そして哲学談義が数ページ続き、クンデラ自身が読者に向かってズバリ「存在の耐えられない軽さ」を語る。小説でそれはありか?
存在の耐えられない軽さ存在の耐えられない軽さ
(1993/09/20)
ミラン・クンデラ

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クンデラという人はそもそも小説家ではないのじゃないかと思う。この本にもストーリーはあるし、登場人物はもちろん存在するけれど、プロットを作るのも、言葉を紡ぐのも超一流の思想家(でいいのか迷うけれど)で、ツールとして言葉を選んだだけ。それを題材、いやある一つの例題として、小説(散文?)という形式を使用しながら自分の思想を語る、それはある意味長い独り言。ストーリーは時系列には並ばず、メインの4人の登場人物それぞれに焦点を変えながら、同じ出来事を視点を変えて繰り返す、そして最後は彼自身が語り始める。ストーリーに込められたテーマではなく、テーマの下に変幻自在にストーリーを展開する手法はここにも登場する。これはチェコがソ連の傀儡政権時代には発禁処分となった本だけれど、もっと言えば、その体制批判さえも題材にした、社会における存在の在り方。

人生のドラマというものはいつも重さというメタファーで表現できる。われわれはある人間が重荷を負わされたという。その人間はその重荷に耐えられるか、それとも耐えられずにその下敷きになるか、それと争い、敗けるか勝つかする。しかしいったい何がサビナに起こったのであろうか?何も。・・・・・ いや。彼女のドラマは重さのドラマではなく、軽さなのであった。サビナに落ちてきたのは重荷ではなく、存在の耐えられない軽さであった。

Einmal ist keinmal.(一度は数のうちに入らない) ただ一度なら、全然ないと同じことである。チェコの歴史はもう一度繰り返すことはない。ヨーロッパの歴史もそうである。チェコとヨーロッパの歴史は人類の運命的未経験が描き出した二つのスケッチである。歴史も個人の人生と同じように軽い、明日はもう存在しない舞い上がる埃のような、羽のように軽い、耐えがたく軽いものなのである。
・・・・あの男は、歴史がスケッチではなく、もうできあがった絵であるかのように行動した。自分の行動にみじんも疑いを抱かず、やっていることすべてのことが無限に繰り返され、永劫回帰してるかのように振る舞った。自分が正しいことに自信を持ち、それを狭量の印としてではなく、徳性のサインとみなしていた。あの男はトマーシュとは別の歴史、スケッチではない(あるいは、スケッチだと理解していない)歴史に生きていた。


クンデラは、Kitsch (キッチュ=俗悪なもの)を美的な理想と言っている。それは虚偽の美しさで ”すべての人が糞など存在しないかのように振舞っている世界” であり ”糞の絶対的否定” であり、だから ”キッチュはそれ自身の観点から人間の存在において本質的に受け入れがたいものをすべて排除する。”、それ故、存在を危うくさせる。

トマーシュとテレザは、そのキッチュから逃れ、田舎で暮らし始める。それは幸せと言うには悲しいけれど、ましな日々だったと思う。そして文字通り読めば、最後は二人一緒に車の事故で死ぬ。読み終わった後ここまで落ち込ませてくれる本はあまりないけれど、二人一緒に事故で死ぬことが僅かな救いのような本だった。
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