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仔羊の頭

セルバンテス賞コレクションと題して、その受賞作家を順次紹介するという企画の中の1冊。セルバンテス賞はスペインで1976年に創設されたスペイン語圏で刊行される文学作品を対象とした賞。この1976年という年の意味するところは、フランコ将軍亡き後創設された、ということ。Francisco Ayala(1906-2009という長寿を全うした人!)はグラナダ生まれのスペイン人で、スペイン内戦を経験し、内戦後アルゼンチンに亡命し (そこでボルヘスやビオイ=カサーレスと親交があったらしい) 文学活動を再開する。が、ペロン政権に嫌気がさし、プエルト・リコに移住、1957年に渡米、フランコ政権が終焉を迎えた1976年にようやく祖国の地を再び踏む。
仔羊の頭 (セルバンテス賞コレクション)仔羊の頭 (セルバンテス賞コレクション)
(2011/04)
フランシスコ アヤラ

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ラテンアメリカの作家の作品は多いけれど、同じスペイン語圏でもスペイン人の文学作品は本当に少ない。それがすなわち、内戦からフランコ独占政権の思想統制された時代の産物なのかはわからないけれど、この作品もフランコ政権時代には刊行が許可されず、フランコ死後3年たった1978年にようやくスペインで出版された短篇集。「序」として、Ayala自身の言葉からこの本は始まる。このシリアスなトーンの「序」は、スペイン内戦もフランコ独裁政権も未知の世界の私には、激しすぎてちょっとびっくりした。でもいわゆる戦後文学というものは、スペインには無かったんだろう。

短篇はどれもただの庶民が経験した、それはもしかしたら作者自身の経験なのかと思わせるような、日常からみたスペイン暗黒時代の作品。シリアスなような、グロテスクなような、それでいてどこか滑稽な5篇。私からみたら発禁本になるほどの痛烈な政権批判も明白な戦争批判もないように見える。それでも刊行が許可されなかった理由はわからないけれど、どれも妙にリアリティーがある。

印象に残ったのは本のタイトルにもなった「仔羊の頭」。内戦後モロッコのフェスを訪れた主人公が、そこで同郷の親戚だと言い出す同姓の一家に夕食に招かれ、主人公が封印していた忌まわしい事件を否応なく語らされる羽目になる。そして夕食に出された「仔羊の頭」を食べてひどい消化不良を起こす。肉体的な消化不良と隠された精神の消化不良。フェスの強い日差しと、グロテスクな御馳走「仔羊の頭」の描写に私も気持ち悪くなった。

「人びとの心の中の内戦」として展開した悲劇的なスペイン市民戦争の実相を、市井の庶民の内省と諦観と後悔の裡に描く」 と出版元の本の紹介にあったけれど、スペインという国をスペイン人自身が書いたという意味では(ヘミングウェーが書いたものじゃダメなんだよね) 稀少な作品。陰惨で悲壮な実態を庶民の視線から書くというのは、理解するには実は距離があり過ぎる(と読書後思った)。要は実感できない私は楽しみ切れなかった、というのが率直な感想。奇才?鬼才?を生む国スペイン文学界の発展はきっとこれからなんだろうと期待している。
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