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時は老いをいそぐ

そして、暖め眺め続けたTabucchi。装丁のモノクロ写真がいい。Tribute効果ってこともないだろうけど、先月発売したばかりにも関わらず、ネット上では書評も感想も意外に多くて、結構読まれているんだと思うと嬉しい。オリジナルは2009年。
時は老いをいそぐ時は老いをいそぐ
(2012/02/21)
アントニオ・タブッキ

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「影を追いかければ、時は老いをいそぐ」
(ソクラテス以前の哲学者による断章、伝クリティアス)

これが本のエピグラム。9篇の短編集。短篇だけれど、「It's Getting later all the time」 のような、連作風の短編集で、どれもがタイトルどおり”時”を巡るモノローグのような断片のような話し。舞台は故郷イタリアでも、人生の半分を過ごしたポルトガルでもなく、東へ東へ移動し、ベルリン~ギリシャ~東欧諸国と流れていく。Tabucchiは、美しい文体に隠れがちだけれど、反民主主義や独裁政権に対する政治的テーマも案外書いている。今回はそれがかなりダイレクトに現れ、東西分裂時代、ソ連やファシストによる抑圧された時代も、懐古シーンの中で登場する。

「It's getting later all the time」 や 「Little Misunderstandings of No Importance」 でかなり頑張って(無理して)英語を読んでみて、その曖昧さに途方に暮れかかったけれど、どうも途方に暮れる必要もなさそうだと安心した。知っているはずの日本語でも、その世界は同じ。確かに、細かな描写や静かに挟まれる言葉に気付く量は減るけれど、全体の印象が変わるということはない。とは言うものの、邦訳を待てない限りは、もうちょっと英語でしみじみと読めると嬉しいのだけどね。

時に対する彼の感覚は、「他人まかせの自伝」 でも語っているように、”人間が通り抜けて時間が不動なのか、時間が通り抜けるのであって不動なのは人間のほうなのか” わからないから、作品の中で時は進むだけでなく、逆行し、再び戻り、再び遡る。過去を振り返るという直線的な懐古ではなくて、逃げていく時間を必死で手繰り寄せようとしている人たちの曖昧な記憶と妄想の断片集のよう。過去と現在は、人間の記憶の中では同軸で進んでいるのかも知れない。相変わらずのミニマリストぶりも健在で、人間関係も場所も時も決して説明はしてくれない、読みながらキーを拾うか、そうなんだろうと想像するだけ、そして結論は当然ない。

抑圧された時代を超えて生き延びた人たちが、その辛い時代さえにも懐古の情を感じるその「時」というものは、過去と言ってしまうには、あまりにも登場人物それぞれの意識下にこびり付いていて、あとがきで翻訳者の和田忠彦さんが言っているように、”まるでかれらの砂時計のなかで砂嵐が起きたみたいだ”
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

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