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顔のない軍隊

「無慈悲な昼食」が気に入ったので、早速第二弾へ。装丁の絵はまさしくこの本そのもの。一見すると酔っ払いの乱痴気騒ぎのようだけれど、銃に刀、血を流して倒れている人々。コロンビアの新鋭エベリオ・ロセーロの出世作で、イギリスはインディペンデント紙の外国小説賞受賞作。
顔のない軍隊顔のない軍隊
(2011/01/25)
エベリオ・ロセーロ

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全編語りはイスマエルと言う名の老人。村人皆が教え子という元教師、今は引退しているこのとぼけた老人が、オレンジを取るふりをして隣家の奥さんの裸体を覗き見するのが日課という、長閑でゆるいエロチックな風景から始まる。覗き見のつもりが皆がそれを知っているものだから、奥さんとの丁々発止、いや、尻に引かれているイスマエルが図星の指摘に下手な言い訳をするという、どこにでもあるような村の風景が突然一転し、村は軍隊に包囲される。軍隊といっても、政府軍、左翼ゲリラ(もいくつかあるらしい)、パラミリタリーの極右武装集団、麻薬組織まで入れたら、単に対独裁政権という単純な構図では済まない複雑な無法状態がコロンビアらしい。武装集団がどの組織だかわからないという「顔のない軍隊」。この見えない武装集団の侵入で、妻が行方不明になり、その暴力にジリジリと追い詰められるイスマイル。それはニュースに流れるような誰と誰が勢力争いをしているというような客観的分析とは無縁の混沌とした状況で、開放してくれる軍隊などありはせず、攻めて来るものは皆同じという出口のない世界。そしてのどかな風景で登場した村の人々が次から次へと殺され、誘拐され、消えていき、村の周囲に地雷が埋め尽くされていると知っていても村を捨てて出て行く村人たち。

そこでおれは笑いの発作に再び見舞われた。自分の唯一の望みが、二度と目覚めることなく永遠の眠りにつくことと、まさに悟ったそのときに、どうして笑いが戻ってきたのか?きっと恐怖心からだろう。この国、この村を覆っている恐怖を完全に見てみぬふりをしたい、愚か者になりきって自分自身をも忘れたい。生きつづけていくために、というより生きつづけているように見せかけるために。本当のところ、かなり高い確率でおれは死んでいるんじゃないのかな?そう、地獄のなかで十分死体になっているさと思い、またもや腹を抱えて笑ったよ。

原稿を半分にしてスピード感を出したという。今日は隣の旦那が消え、次の日は飲み屋の奥さんと子供が誘拐されて法外な身代金を要求され、100歳のもぐりの医者が首を切られ、と後半になるに従い加速度的に人々が消えていく。このイスマイル老人、ボケ爺さんとして登場し、ゲリラや麻薬組織や、政府軍の状況なんて、全然知らない爺さんなのかと思いきや、”誰の支配下であろうと関係ない” し、自分たちは ”ゴキブリ以下の無防備” な状態なのだと、ちゃんと判っている。追い詰められ正気でない状態になりながらも、語りから冗談が消えることがない。恐怖心から笑ってしまう、いっそ本当にただのボケ老人になってしまいたい・・・ 最終ページで隣家の奥さんが殺され、その亡骸を犯している場面に遭遇し事切れたイスマイル。顔の見えない武装集団に ”名前は?”としつこく聞かれる。
「我輩は名無しである」と言って笑いとばしてやるんだよ。からかっていると思って発砲するかもしれないぞ。そうなったら儲けもんだ。どうかそうなりますように。
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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