Entries

ペインティッド・バード

松籟社の《東欧の想像力》シリーズは、意識していなかったけれど、気付いたらそこそこ読んでいた。イェジー コシンスキ(Jerzy Nikodem Kosiński)はポーランド出身。ホロコーストを生き残りアメリカに亡命し、1965年にこの本を英語で書いた。
ペインティッド・バード (東欧の想像力)ペインティッド・バード (東欧の想像力)
(2011/08/05)
イェジー コシンスキ

商品詳細を見る
第2次大戦が開始した時代。6歳の少年が両親から離れて疎開し、混乱のなかで連絡は途絶え、預け先の里親がすぐに死んでしまったことから、少年は生き延びるために村々をさまよい歩くことになる。そして、ブロンドの髪を持つ白人の村々の中で、オリーブ色の肌に黒髪黒目の少年は、ジプシーかユダヤ人の浮浪者と見なされる。タイトルのペインティッドバードとは、鳥の群れから1匹を捕まえ、それにペンキを縫って群れに戻すと、鳥たちは異分子が混じりこんだとみなして、総攻撃をかけ殺してしまう、つまりこの少年はどこへ行っても、異分子として虐待を受ける。どう足掻こうとその黒髪と肌の色から云われなき虐待を受け、少年は声を失う。

吐きそうになる程だった。昔アゴタ・クリストフの『悪童日記』でもそう思ったけれど、この本はそんなもんじゃない。生き延びるために、正義や良心を捨て去るという正当防衛ではなく、そこには残酷さに喜びを見出す人間たちや、性的倒錯が日常の中で繰り広げられる異常さがある。妻の間男の目をくり抜く男、誰とでも寝る女を嫉妬し殴打して殺す村の女性たち、娘と息子を犯す父親、ユダヤ人の少女を犯し行為の最中に性器が抜けなくなり、少女を殺してしまう農夫。この人間の醜さは、平和な世界しか見たことがない私には異常極まりないものだけれど、人間がそもそも醜いということではなく、人間はここまで醜くなれるということが怖い。ナチスばかりがフォーカスされるホロコーストの歴史は、実は普通の人々がナチスと同様、ユダヤ人やジプシーたちを、その見た目や人種だけで差別を加えていた歴史でもあったのだろう。今でこそ、それを異常と言いきれるホロコーストだが、渦中においては、それを普通の人々が支持し、熱狂し、同調したということだ。

これは誇張された全くのフィクションではないどころか、作者の友人のこんな言葉が巻末にある。
この小説は、自分たちや家族の多くが戦争中にくぐりぬけた経験に比べれば、牧歌的な小説である。

彼らは、歴史的真実を水で薄め、アングロ=サクソンの感受性に迎合したといってコシンスキを責める。

6歳の無垢な少年は、自分に浴びせられる不条理な差別と虐待に、理由を見出そうとする。拾ってくれた家では、目立たぬよう、逆らわぬよう息を殺して暮らし、必死で働き、神を信じれば救われると一心に祈り続ける。だが、どうやっても自分を取り巻く残虐な世界から抜け出すことが出来ず、ある時こう悟る―。
要は、自覚的に悪に肩入れせよ、そして、ひとを傷つけ、できるだけ多くの悲惨さや苦痛をひき起こすように計算されたやり方で悪霊どもに認められた恐るべき力をはぐくみ、発揮することに喜びを見出せ、ということなのだ。・・・・気持ちがふっきれず、目的意識も定かでないまま、呪いと祈り、居酒屋と教会のあいだで道に迷った人間は、神からも悪魔からも助けを得られず、たったひとりで、一生涯、もがき苦しまなければならない。

大戦後少年はソ連の庇護下に置かれ、徐々にソ連に感化されていき、両親と再会できた後でさえソ連将校と行動を共にしたいと願う。その姿がアメリカでは親ソ的なプロパガンダと取られ、母国を悪しきものとして描いたためポーランドでは発禁処分となり、作品自体も物語と全く同じペインティッドバードの道を歩く羽目になる。ある日声を取り戻した少年は、もう神に祈りを捧げる子供ではなく、躊躇いなく人を殺す悪魔の側についた怪物になっていた。アメリカに渡ったコシンスキは、猛勉強の末コロンビア大学に進み、上流社会の未亡人と結婚するが、謎が多い作家として、常に盗作疑惑、CIAとの関連などスキャンダルまみれの人生を送り、1991年に自殺を図り絶命したそうだ。
関連記事
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://besideabook.blog65.fc2.com/tb.php/239-d6714b04

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

Green

Author:Green
夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

Calendar

<
>
- - - - - - -
- - - - - 12
3 4 5 6 7 89
10 11 12 13 14 1516
17 18 19 20 21 2223
24 25 26 27 28 2930
31 - - - - - -

全記事

フリーエリア

フリーエリア