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隣りの庭

José Donosoは「三つのブルジョワ物語」に続いて2冊目。幻の名作「夜のみだらな鳥」は高くて手が出ないので(いい加減に復刊すれば?)、それ以外に捜してみたけれど、そもそも邦訳自体が少ない。
隣りの庭 (ラテンアメリカ文学選集 15)隣りの庭 (ラテンアメリカ文学選集 15)
(1996/10)
ホセ ドノソ

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「三つのブルジョワ物語」では、シュールで可笑しな短篇を読ませられたから、これはどうかと思ったら、そんなシュールさやラテン文学のマジックリアリズムを期待したら、これは恐ろしく重くて暗い。自らの実存と葛藤するチリの自主的亡命作家が、亡命先のスペインで味わう苦悩を一人称で語る。

軍事政権によって6日間投獄されたという経験を持つフリオは、その「政治的トラウマ」を題材に小説を書こうと葛藤するが筆は全く進まない。亡命先スペインでは、遠い南米でのクーデータ(アジェンデからピノチェトへ)などブームを過ぎてしまえば、人々の関心など全く引かない、それはラテンアメリカ文学ブーム(作中で引用されるのは、ガルシア・マルケス、バルガス・リョサ、コルタサル、等々)と同じく過去のもので、フリオの原稿は冷たくつき返される。一方で彼の息子のパトリックや友人ビジューという若者たち、チリ人としてのアイデンティティなどとっとと捨て去り、ヨーロッパという新世界で、ヒッピーのごとく自堕落な生活を送っている。親を古臭い化石のようにしか見ない若者たちとの断絶。亡命先では、異邦人としての疎外感を味わい、かといって祖国チリに帰ることも出来ない。かつては美しかったブルジョワ出の妻グロリアとの関係も冷め切っている。すべてが八方塞のフリオにとって、「隣りの庭」の若く美しい夫人を眺めることだけが密かな楽しみだが、バカンスで居なくなってしまう。自主的亡命者は自主的であるが故に、自分自身であり続けようとする限り、大儀が消え希望が砕かれても、生きてゆくために必要な忘却という術を受容れることができないというジレンマに陥る。

最後にドンデン返しが待っていた。フリオの実存不安は実は妻グロリアの実存不安であり、彼女こそが実の語り手であったというエピローグ。フリオの原稿をにべもなく切り捨てた女性文学エージェント、ヌリアにグロリアが語る事の顛末。ドンデン返しというより、180度違う逆の視点で物語は終わる。冷酷ともとれるヌリアが人間味溢れる女性として再登場し再生を果たしたグロリアと語る場面。そしてフリオも救済される。

「夜のみだらな鳥」にはいつ辿り着けるのか・・・(ただいまAmazonでは¥7,795)
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[C271] そんな複雑な物語を・・・

なんと手際よくまとめたのだろう!

今度ぜひ貸してください。
  • 2012-07-17 00:40
  • さかい@tadoku.org
  • URL
  • 編集

[C272] いや、そんな・・・

邦訳版には親切な「あとがき」というものが存在するので、それを読むともや~~としていたものが、クリアになったりするのです。決して私独自の意見だけってわけでもございません。

> 今度ぜひ貸してください。

いいよ。。。でもいつ読むのかなあ。。。読んだ感想なんて期待していいのかなあ。。。 今貸し出し中の本の感想はいつ聞けるのかなあ。。。
  • 2012-07-18 00:07
  • Green
  • URL
  • 編集

[C274] う・・・

(ぐぅの音も出ない)
  • 2012-07-23 23:33
  • さかい@tadoku.org
  • URL
  • 編集

[C275] 出るわけがなかろうに・・・

ぐぅ!!!


  • 2012-07-23 23:37
  • Green
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Author:Green
夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

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