これは密かな傑作!密かなというのは、このモンタルバーノ警部シリーズの邦訳は2冊しかなく、もう1冊は、
「モンタルバーノ警部―悲しきバイオリン」というもので、これ1冊で私はガシッと胸倉を掴まれたものの、そうは云っても、2冊では番外篇に甘んじてしまう。でもAndrea Camilleriは本国ではベストセラー作家で、このシリーズも20冊近くでていて、ドラマ化もされているらしい。じゃ、どーして邦訳がないかというと、単純に商業ベースに乗らないと判断されたか(xxxx警部シリーズじゃ、今さら感がある)、彼の出身地シチリアが舞台で、オリジナルは標準イタリア語(?!)からかなり逸脱したシチリア方言が満載で相当に翻訳が難しいらしい。
とにかくローカル色満載どころか、ローカル一色の設定で、実はグルメのモンタルバーノ警部の食べる郷土料理はやたら美味しそうで堪らない。忙しかろうが、落ち込んでいようが、常にこのヒト、美味いものを喰わずにはいられない。でも口は悪いし、我侭だし、喜怒哀楽は激しいし、暴言なんて日常茶飯事だし、でも頭はいいし、実は人情家だし、ものすごく本を読むし、権力に媚びないし、人間としては欠点だらけだけれど、やることなすこと大笑いだし、でもホロッとさせるし、そこまでやっても嫌味はないし、ハードボイルド系じゃなし。。。ってことで私は絶賛しているんだけど、なんせ邦訳がない。
警部というくらいなので、ちょっと偉くて部下もいる。当然事件が起こり、それが解決していくまでを描いているけれど、謎解きの面白さはない・・・(笑) それに絡んだ人間模様や、ユーモア(ドタバタ)満載のやりとりやが面白いんであって、謎解きについては、警部が一人で鋭い推理を巡らせ、訳の分からぬまま部下にあっちに行け、こっちに行け、あれをやれ、これをやれ、と命令し、独り勝手に事件を解決させてしまう。恋人のリヴィアも自由奔放、警部は威張ってはみても惚れまくっている。上司の署長は定年間近で事件のことなんてモンタルバーノに任せっきりで、大ボケの会話をして和ませてくれる。登場場面は少ないけれど、元教師の夫人や哲学教授の話すことはちゃんと聞き、頭があがらないモンタルバーノ。舞台の架空の町ヴィガータの人々もちゃっかり者で要領よかったり、でも人の気持ちに気付いてあげられるどうにもいい奴らで、犯人も間抜けだし、イタリア情報機関の大佐でさえ、モンタルバーノにやり込められる。
実はイタリアにおけるシチリアの立場や移民の問題も絡めているけれど、それは政治色が強まるというより、庶民の暮らしからみたお上への投げかけ、と云った方が当たっているかもしれない。恋人とのこと、危篤の父親との関係、孤児になった男の子への愛情、事件はいつの間にやら片付きながら、最後に残るのはモンタルバーノ自身の心の葛藤だったりするから、涙は流さずとも泣いてしまう。
英語版はあるじゃない、あら、Kindle版まであるじゃない。そのうち試しにポチッとしているだろう・・・
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[C279] おお! kindle版がある!