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フェルトリネッリ

晶文社の「本の本」シリーズ。副題は「イタリアの革命的出版社」。イタリア出版界と聞いたら、このジャンジャコモ・フェルトリネッリが誰だか知らなくても、登場しそうな作家を思い描くだけで、とても素通りはできない。
フェルトリネッリフェルトリネッリ
(2011/02/09)
カルロ・フェルトリネッリ

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と思っていたら、期待は大きく裏切られる。イタリアの出版人、波乱の46年を生きたジャンジャコモ・フェルトリネッリの生涯を10歳でその父を亡くした息子のカルロが、父の私文書、公文書、往復書簡を集め、所縁の地と人々を訪ねてまとめあげた1冊。

ジャンジャコモ・フェルトリネッリは1926年生まれ。イタリアの大富豪、フェルトリネッリ家の資産を受け継ぎ、戦後まもなく共産党に入党し、「フェルトリネッリ図書館」を創設して社会主義の古典文献を蒐集、「フェルトリネッリ研究所」を創設、さらに「フェルトリネッリ出版社」を立ち上げる。彼を有名にしたのは、パステルナークの長篇小説「ドクトル・ジバゴ」を自分の出版社から世界に先駆けてイタリア語訳、ロシア語版を独占出版したことに始まる。ソ連共産党から監視されていたパステルナークとの個人的な書簡、協力者を通したやりとり、ソ連の執拗な出版差し止めや、その緊張感とジャンジャコモの苛立ち、そして大ベストセラーとなった「ドクトル・ジバゴ」に絡んだ金銭的ごたごたが詳細に描かれる。

後半は60年代に入り、彼が世界を股にかけて革命のために飛びまわる疾風怒涛の歳月。キューバ、カストロと出会い、ゲバラに関心を寄せ、彼は世界各地の革命運動に関わることになる。CIAからは「ヨーロッパにおけるカストロのもっとも重要な代理人」と呼ばれ、南米・アフリカ・そしてヨーロッパ内でも勃発したテロ活動の影でフェルトリネッリはもう出版人ではなくなり、一革命家になっていく。指名手配を受け、命の危険に晒され、偽パスポートを所持し、潜伏生活を続け、最後は、高電圧鉄塔を破壊し、ミラノに大停電を発生させようと画策した揚句に事故死か他殺か不明なまま、非業の死を遂げる。

ジャンジャコモ・フェルトリネッリが生きた時代は、戦後の東西冷戦とイデオロギー論争の真っ只中で、彼が果たした役割が何だったのかは正直私には分からない。でもあまりにも崇高な理想を掲げたゆえの非業の死だった気がする。潜伏生活中は息子カルロとも時折しか会えない暮らしが続き、行く先々から息子に書いている手紙は、10歳にもならない息子をただ愛おしく思う父親の姿と、自分の理想を幼い息子に少しでも伝えようとする気持ちが常に溢れた手紙だった。死の理由も不明なまま、10歳で別れた父の真実を真摯に知りたいと思うのは息子のカルロにとって当然のことなのかも知れない。生身のジャンジャコモを知らない人々には、彼は気の触れた大富豪にて左翼急進派でしかないのかも知れないし、息子の書く父親の伝記に客観性はないのかも知れない。でもほんの数10年前まで、多くの出版人は世界の変革を高く掲げた存在だったんだとこの本を読むと改めて思う。
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