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厳重に監視された列車

チェコの作家、Bohumil Hrabalは2冊しか邦訳本がでていないから、英語版を探しながら 「I Served the King of England」 を読んだりしていた。Amazonでふと見つけてしまったこの本、ああ、新しい本が出たんだ!と即ポチをし、到着した本を見て思う、なんだかどこかで聞いたことがあるような、ないような・・・ 英語で読んだ 「Closely Observed Trains」 だった。ま、いい。鮮明に覚えているわけでもなし、ちゃんと理解できたわけでもなし。邦訳を読んでやっぱり思う。口語的な語り口の割には、なんだかよくわからない・・・というのは、そもそもこの作家の文体なのかもしれない。
厳重に監視された列車 (フラバル・コレクション)厳重に監視された列車 (フラバル・コレクション)
(2012/09/14)
ボフミル・フラバル

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主人公のミロシュ・フルマはナチス占領下のチェコで働く鉄道員。フラバル作品によく登場するような、どこか屈折した青年で、彼の場合は初めての恋人との童貞喪失で 「百合の花のように萎えてしまった」 自分を恥じ、手首を切り自殺を図るが命を取り留める。それとは対照的な同僚のズデンカは、ちゃっかりと夜勤の駅長室で電信嬢と上手くやっちゃったりする。鳩を飼育することに情熱を燃やす駅長は、気も弱いが権威にも弱い典型的な公務員。撃墜されたドイツ戦闘機の残骸部品を、あっという間に人々が回収してしまうことさえ、日常光景である時代。

可笑しくて卑猥で、描かれているのはごく普通の庶民であるのに、背景はナチス占領下で空襲や爆撃が日常的に起き、仲間に憎まれようが自分だけがいい目を見ようとする殺伐とした社会。相反する日常と非日常が当たり前のように混じり合うと、善と悪、正義と不正の境目がぐらついてくる。”僕は男になる”と叫び続けたミロシュが男になり、ドレスデンの大空襲から命からがら逃げてきたドイツ人になんの憐れみも感じないと言い切るようになった彼は、列車爆破計画に意気揚々と加担する。あのちゃっかりもので悠々としていた同僚のズデンカが怖気づいていても、ミロシュは命の危機にさえ無頓着になれる。敵方のドイツ人と打ち合いになり、二人して果てるその寸前に、苦痛から足をばたつかせ、叫びを上げ続けるドイツ人に、ミロシュは自分が半死状態にも関わらず、最後の1発を撃ち込み絶命させる。それは憐れみからというより、死に瀕した人間が見せる当たり前の感情が、それに無頓着になった彼にとっては、無意識にせよ耐えられなかったのだと思う。そして爆破された列車の轟音と震動が響く。

フラバルの文章は隠喩や暗喩に満ち、豊かな表現が多い。だからこそぞっとするのである。
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

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