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墓地の書

スロヴァキアの作家、Samko Tale. 舞台になっているのはコマールノという都市。ここはスロヴァキア南西部の、スロヴァキア系とハンガリー系住民が混在する町。ドナウ河の対岸はハンガリー。1990年代、ソ連が崩壊し、東欧諸国から共産主義が排除され、独立運動と民族主義と、そして同時に新旧の価値観の混乱が起きた時代。
墓地の書 (東欧の想像力)墓地の書 (東欧の想像力)
(2012/04/13)
サムコ ターレ

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「れっきとした名前のある病気」で成長不全の40代も半ばのサムコ・ターレ。知的障害を持ち、ダンボール回収を仕事にしている彼が、雨が降って仕事ができなかった時、呑んだくれの占い師グスト・ルーから、「『墓地の書』を書きあげる」と予言されそれを実行する。彼の語りは子供のようで、同じことを何度も何度も繰り返す。自分は、皆から尊敬されていて、知性的で、金持ち。ケフィアはとても健康によくて、僕はとても体に気を使っている、ピオネールのスカーフが僕のだけオレンジ色っぽい、でもとってもステキなスカーフだ。そして最後は、「そうだろう? そうだとも。」 と締めくくる。自分は人種差別主義者ではない、と声高に主張しながら、ドイツ人やハンガリー人、ロマたちを蔑む。そしてグナール・カロル博士という共産主義者に頻繁に会いに行き、自分が博士に報告をしないと後で非難されるからと、所謂密告をする。自分の父親が外国のラジオ放送を聞いていること、徴兵逃れをした者がいること、不道徳な行いをしたもの、そしてカロル博士に誉めてもらい、博士は特殊学校に行かずに済むように計らってくれる。

無垢な語りかと思いきや、その執拗な自己保身と自慢話と見栄の繰り返しは、徐々に無気味さを増していく。嫌いな人間を徹底的に差別するその意識に対する自覚がなく、その実、サムコ・ターレこそが差別される側の人間だという事実。共産党時代はよかった、今は民主主義だから、博士はもう ”きちんとできない”と懐古する裏には、共産党時代には隠蔽されていた失業率の増大やインフレなどの社会的問題や、アメリカを始めとする西側諸国という敵を失い、別のターゲットを創造することではけ口を見つけるという価値観の混乱も浮かび上がる。民主主義に転換した祭りの後には、厳しい現実もある。

本国以外でも高い評判をとったというこの本。いったい、スロヴァキアの人たちはどんな思いでこの本を読んだんだろう・・・
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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