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野生の蜜・キローガ短編集成

欲しいなあ、欲しいなあ、でももうちょっと値下がりしてから(定価は¥3,500)、と思っていたら、古本カフェで仕入れてくれていた。新しい本だから下がり切らないのは仕方がないので、手打ち。「ラテンアメリカ随一の短篇の名手」なんて云われたら、ウズウズするってもんだ。
野性の蜜: キローガ短編集成野性の蜜: キローガ短編集成
(2012/05/28)
オラシオ・キローガ

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330ページ足らずで30篇のテンコ盛りなので、一篇は数ページ。幻想ものあり、都会風あり、彼が一時暮らしたジャングルものあり、そして30篇のほとんどが死にまつわる話し。Quiroga自身が「死の作家」と云われるほど、彼の人生の中で常に「死」がまとわり付く。偶発事故で友人を殺してしまい、都会育ちの妻は密林での暮らしに絶えられず自殺。本人は病気を苦にして自殺。後日談として二人の子供も自殺、つまり一家皆が自殺で命を絶っている。

都会とジャングルの間を行き来したQuirogaらしく、短篇の舞台は都会ものとジャングルものとが混在する。初冬の今じゃなく、ジメジメ、ネトネトした真夏の夜なんかにエアコンもつけずに読むと一層盛り上がりそう。昆虫や野生動物、果てには寄生虫や恐竜まで現れる。とにかくうっそうとした暑苦しさは、表紙のアンリ・ルソーの絵(らしい)に象徴されるような濃密さ。猿が人間に(いや、人間が猿にか?)変身する「転生」や、毒密に麻痺して動けなくなる身体に群がる蟻が無気味な「野生の蜜」、人間として育てられた虎の子供が虐待され復讐する「フアン・ダリエン」とか、ジャングルものがやっぱり面白いんじゃない!と結論づけようと思ったら、復讐のために舌を切り取ろうとする歯科医が、切っても切っても増殖する舌の前で狂気に陥る「舌」とか、笑っていいいのか恐ろしいのかわからなくなる「愛のダイエット」、娘を死の運命から守ろうとして果たせなかった母親のぞっとするような狂気の告白「呼び声」、知的障害の息子ばかりが生まれてくる夫婦にやっと授かった愛らしい娘を息子たちが無邪気に殺す「頸を切られた雌鶏」など、都会ものもやっぱり面白かったと後で気付く。30篇もありながら結構憶えているから、”キローガ傑作集” はやっぱり傑作集だった模様。

以前読んだ「ラテンアメリカ十大全集」を思い出した。私の好きな短篇の名手コルタサルは、Quirogaからそれを学んだということだったけれど、最後の解説が云うには、ポーやルゴーネスを愛するボルヘスが、同じくポーを崇拝しルゴーネスと親交のあったキローガを、「キローガを読むメリットはない」と毛嫌いしていたらしい。これは作品そのものというよりは、当時の文学グループの共通認識であり、ボルヘスにとっては旧世代にあたるキローガへの対抗心ではなかったのか?という意見もある。キローガの作品は、ポーやコルタサルのような現代的な完成されたスマートさは確かになく、死と悪夢がとぐろを巻く彼の人生そのもののようで、でもそれって、ひたすら直線的で上昇志向の西洋社会にはない ”悲惨な事象や狂気は繰り返されるという循環説、そして時空を超えた自由な世界” なんだろう。それはそれでいい。
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