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はまむぎ

「人生の日曜日」 以来、半年以上ほったらかしにしていたレーモン・クノーが溜まっている。邦訳はされていながら、高くて手が出せなかった「はまむぎ」は実はこのコレクションの中で一番楽しみにしていた一冊。そして期待は裏切られなかったよーー
はまむぎ (レーモン・クノー・コレクション)はまむぎ (レーモン・クノー・コレクション)
(2012/06)
レーモン クノー

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これがクノーの処女作で(1933年)、ドゥ・マゴ賞受賞の第一作目。このドゥ・マゴ賞というのが、前衛的過ぎて文壇からは評価されなかったこの「はまむぎ」のため、クノーの友人らが、パリの老舗カフェ「ドゥ・マゴ」で、この作品に文学賞を与えるためにつくっちゃったという賞。これが後にゴンクール賞と並んで権威ある文学賞となるドゥ・マゴ賞の誕生秘話。デカルトの「方法序説」を現代の話し言葉で書いてみたらどうなるかというアイディアに基づいて書かれたというが、この実験的試みは後々までクノーの作品で繰り返される。

書き出しは 「ひとつの人影がくっきり浮かび上がった」 なんていうややオドロオドロしい始まり。小難しくて暗いお話しなのかと身構えたら、あれよあれよという間にアクの強い個性的な登場人物が次から次へと登場してきて(最後まで全員は把握できなかったけど)、ドタバタ劇風ともいえる様相を呈してくる。得意の言葉遊びは、時に高尚過ぎて私にゃわからなかったけれど、こいういった小ネタの中には馬鹿馬鹿しくて大笑いしてしまうものも沢山。なんといっても、「ゴム製のアヒルから始まる、田舎町での陰謀譚」 という帯の言葉が既に先制パンチ。ゴム製のアヒルがキーワードになるわけでもなく(哲学的含みがそこにあるのか??)、陰謀譚といったって、書き出しの「人影」エティエンヌが事故が縁で知り合いになったピエール(これが謎の観察者という存在でありながら、作中登場人物という不思議な構成)を誘って、郊外のフライドポテト屋へ向かい、そこで出会ったガラクタ屋トープ爺さんの家へ寄った帰りに、爺さんの家の青く塗られた戸の後ろには、大金が隠されていて、実は彼は億万長者かもという雑談が、詮索好きで欲深いクロッシュ夫人に伝わり、欲と大いなる思い込みと大いなる勘違いで騒動に発展する・・・ というのが陰謀譚の中身よ。。。

金のために牧師に扮装して、恐喝まがいのことまでやっちゃう強欲なクロッシュ婆さん、観察者(?)のピエール、人の手紙の盗み読みが趣味のアパート管理人サチュルナン、エティエンヌの妻に恋する失業中の音楽家ナルサンス、フライドポテト屋のウェイトレスで色っぽくてトープ爺さんお気に入りのエルネスティーヌ、エティエンヌの義理の息子でませたガキのテオ、脅しで人に寄生して生きる常に命令口調の小人のベベ・トゥトゥ。喧嘩していたはずが、殺し合いになっていく展開をひたすら実況するような記述や、寄生虫のような小人とませたガキの噛み合っている様ないない様な会話に、哲学的な存在論をがなり立てた後、”これから神さまの話なんかをするつもりじゃないだろうね?”とプツンと終わりにされてしまう打ち切り方。

最後に戦争に突入した時代を挟んだり、デカルトの「方法序説」の現代話し言葉版、という情報はあればあったで、愉しめるけれど、それらをふか~~く理解しようなんて思わない方がいいのかもしれない。でもまた平べったい存在に戻るエティエンヌと、数千もの人影の情景という振り出しに戻される終わり方は、わからないながらも唸ってしまうエンディング。処女作を一番面白いというのはクノーに失礼だとは思うけれど、今までのクノーの作品の中では一番面白いかもしれない(あと数冊このシリーズは残っているけどね)。
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