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皇帝に捧げる乳歯

さて、ここからどのようにウィーン世紀末が発展したかというと、こんな本。 「シャイブスの町の第二木曜日」(フリッツ・フォン・ヘルツマノフスキー=オルランド)が気に入って、この長い名前の作家の作品を捜しにかかったら、ない。Amazonを長いこと愛用しているけれど、Amazonにないのはこれが3度目くらい(最初の2度がなんだったかは忘れた)。ないとなるとかえって執着するもので、ネットで発見した古本屋さんから購入した。1970年発行だから、途轍もなく古いってわけでもないのになあ。牧神社という今回初めて知った出版社は今は存在しないのだけれど、この「皇帝に捧げる乳歯」のような本を出版してくれるような昨今ではお目にかかれない貴重な出版社だったよう。

「皇帝に捧げる乳歯」 フリッツ・フォン・ヘルツマノヴスキイ=オルランド作・絵 池内紀・訳 牧神社
皇帝に捧げる乳歯

フリッツ・フォン・ヘルツマノフスキー=オルランド(1877~1954)は、父方からウィーンとチェコ、母方からはイタリアとビザンチンの血を受け継いだ、世紀末ウィーンを生きた風変わりで奇異な世界を描いた人で、この本は彼の生前唯一の単行本で1927年刊行。原題は 「薔薇の網目にからめとられた駑馬のお化け」 というらしい。意味以前に”駑馬”の意味がわからん。駑馬(どば)=のろい馬 無能な人のたとえ。 「麒麟も老いては駑馬に劣る」という諺をここで知る。

宮廷書記官ヤロミール・エドラー・フォン・アインフーフ、ご他聞に漏れず皇帝フランツ・ヨーゼフを崇拝し、職務に忠実、でも元宮廷侏儒の娘と結婚して出世と地位と財産を願う、今の時代で云えば小役人(?)。彼のコレクションが「乳歯」で、皇帝の統治25周年に、その乳歯コレクションをタブローにして皇帝陛下に捧げようと、最後の25個目の乳歯を捜し求めていた。そのターゲットになったのが、人気歌手ヘルトイフェル嬢で、乳歯獲得を画作するうちにこの女優に恋してしまう。この恋の成就は叶わず、執拗に求め続ける25本目の乳歯をまだ少女の娼婦から手に入れようとし、揚句少女の脳天を叩きのめし、警察の手入れのどさくさに紛れて逃げ出すも、最後は24本の乳歯を装填した銃で自ら命を絶つ。

奇書?法螺話し?いや、おふざけか?(実際、笑う箇所多し) ここに登場するのは誠に奇妙な人々。小人や巨人だけならいざ知らず、「耳掻き棒鍛冶工」 「宮中食卓布賄人」 「宮廷屠殺業者」 「軍用捨子育児院書記官」 「王立蝶類蒐集館館長」 「宮廷蝋燭消器掃除官」 から 《真夜中新聞》 編集者、マリア・テレジアに使えた女官が拝領した人が座ると音楽を奏でる 《おまる椅子》、ウィーン1の菓子商が作る銘菓 《熊の糞》・・・ ちなみに当の主人公アインフーフの役職は「宮廷喇叭管理局配属宮廷書記官」である。十分じゃないか。。。 ここから腐った帝国の官僚主義を透かして見てしまっては、この本は面白くも何ともない。爛熟を極めたコスモポリタン都市は何もかも飲み込んだわけで、こんなとんでもなく面白いウィーンを描かれたら、教科書的なオーストリア=ハンガリー二重帝国の歴史書など読む気が失せてくる。
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[C358] 去年の夏ウィーンに・・・

はじめて行ったけれど、ほんとに爛熟そのものだったよ。どの役職も少しも誇張に聞こえない。
  • 2013-01-08 11:40
  • さかい@多言語多読
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[C361] 既にウィーンにはいったけど・・・

爛熟加減はわからなかったけど、ドイツと違うということはわかった。

役職はよ~~く考えたら、江戸時代の大奥もかなり凄いだろうなあ、と思えてきた。きっと帝政ロシアとか、フランスブルボン王朝なんてのも、凄そうだ。
  • 2013-01-09 00:57
  • Green
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[C363] うん、だれかそういう比較を

してくれないもんだろうか・・・?

いまに通じるぞ!

[C365] 誰か・・・

そう、誰か・・・ 私ではない誰か・・・
誰かやってえ~~
  • 2013-01-12 22:26
  • Green
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