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破壊者ベンの誕生

過去、Doris Lessingの作品で読んだものと云えば、デビュー作 「草は歌っている」 と、エッセイの 「なんといったって猫」 の2冊。2007年にノーベル賞を受賞しているわりには、知名度も人気も日本ではいまひとつ。かく云う私も「草は歌っている」を評価しつつも、硬派で社会性もあり、決して気軽に読もうと思える作家ではない。この「破壊者ベンの誕生」はそんなイメージからすると異色な雰囲気をもつタイトルに表紙デザイン。
破壊者ベンの誕生 (新潮文庫)破壊者ベンの誕生 (新潮文庫)
(1994/08)
ドリス レッシング

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オリジナルは 「The Fifth Child」。地味でチャラチャラしたものには見向きもしない似たもの同士の二人、ハリエットデイヴィッドが結婚し、分不相応なまでに大きな豪邸をローンで購入する。そこで子供を沢山作り、幸福な家庭を築くことが二人の夢だった。子供が次々と生まれ、両親や親類からお金の援助を受けながら、でも親戚一同がクリスマスやイースターなどには大勢集まるような、一見すると絵にかいたような幸せな一家になる。ところが五番目に生まれた子供ベンには異常があった。肉体的発育が早く凶暴で、グロテスクな容姿、低い知能。皆がそして父親さえも、彼を敬遠し、幸せな一家を破壊する異形の存在、ゴブリン(小鬼)となっていく。皆の総意でベンは隔離施設に収容されるが、そこで薬漬けにされているベンを見たハリエットによって、結局自宅に連れもどされる。母親だけがかろうじてベンの世話をし、家族はバラバラになり、親戚が集まることもなくなった家族。そして成長していったベンは、不良グループの一員となっていく。結末はない・・・

親類縁者のみならず、両親であるハリエットもデイヴィッドも、一見もっともな理想と信念を語るけれど、どこか独善的。ベンを救い出したかに見えるハリエットも、それは母親の愛情や人間としての罪悪感だとか、そういうものとは少し違うような気味悪さが終始続く。ベンのことには触れないように、存在しないものとして扱う人々の中で、母親のハリエットがベンの面倒を一切引き受けるのだけれども、それはベンを守るための母の無償の愛ではなく、自分の心の底に潜む暗い闇を、自分が「スケープゴート」となることで、贖罪を求めているような独善的な気持ちじゃなかろうかと、これがどうにも恐ろしい。

ベンの声は、ほんの片言の単語と、それ以外は唸りと叫びだけ。彼の心情は一切描いていない。周囲の人々によって形容されるベンはとことん無気味でシュールな異形・奇形として描かれている。だから徐々にベンという存在がなんだか実体のない、人間の内面に巣くう悪の象徴のようにも思えてくる。

この本には実は続篇があるらしい。「Ben, in the World」 読んでみたいような、もう葬ってしまいたいような・・・
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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