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犬の心臓

特段ロシアンウィークを開催しているわけではないけれど、こういう連続って結構よくある。「チャパーエフと空虚」 に続く、ロシアの大御所、あの「巨匠とマルガリータ」の作者ミハイル・ブルガーコフが1924年に著し、発禁処分をくらい、1960年代に不完全ながら初めて陽の目を見、1989年に完全版が出版されたという問題作。
犬の心臓 (KAWADEルネサンス)犬の心臓 (KAWADEルネサンス)
(2012/01/24)
ミハイル・A・ブルガーコフ

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ロシア革命の混乱が残るソ連邦成立直後のモスクワ。吹雪の夜、病院の匂いを身にまとった優雅な紳士、外科医のフィリップ・フィリポヴィッチと出くわした野良犬シャリクは、その外科医に拾われる。暖かい部屋と食べ物を提供され喜んだのも束の間、この外科医と助手のボルメンターリにより、死んだ軽犯罪歴のあるアル中男の脳下垂体と睾丸を移植されてしまう。外科医は若返りを研究する医者で、その実験に利用されたシャリクだったが、手術の結果、医師たちはとんでもないお化けを作り上げてしまうことになる。徐々に体の毛が抜け、人間化していくシャリク。しかも犯罪男の性格を現し始め、粗野で下品で手に負えない存在となる。アパート管理人協会(いかにも社会主義国家らしいお仕事だ)のシヴォンデルに唆され共産主義を主張し、名前を要求し、部屋を要求し、人権を要求し、職を得て、女性を欲し、労働者階級の人々と密接な関係を結んでいく。

外科医フィリップ・フィリポヴィッチは革命前のブルジョワジー。そして転換手術はロシア革命。その結果生み出されたフランケンシュタインの犬人間がプロレタリア代表ってところか。そもそもシャリクは貧乏だが善良な市民の象徴のような野良犬なのに、変身後の犬人間の品性が下劣ってところが、社会主義体制への皮肉と受け取られ、発禁へと繋がったのだろうけれど、話しは旧世代であるブルジョワジーを称賛するような、そんな単純なことではない。この医師もインテリ+ブルジョワジーの自分の立場を鼻にかけるようなかなり嫌な奴だし、貧乏人は黙っていろ、くらいの決して古きよき旧世代じゃない。当時の社会や人間への怒りを犬に語らせ、その俗悪さ醜悪さが暑苦しいほど。犬人間を作り出すというSF的・科学的な面白さもあるはずだし、猫嫌いのシャリクが、犬人間になり得た職が、モスクワ清掃局、動物追放課長として猫退治をするっていうのは笑えるはずなんだけれど、全然笑えないどころか、後半はかなりくら~~い、憂鬱な気分になってくる。

外科医に拾われた直後、金ピカの首輪をつけられたシャリクが最初こそ反抗するものの、街にでた途端、かつて同類だった野良犬から羨望の目で見られ、すっかりこのブルジョア暮らしに安穏としてしまう。手に負えない存在になったシャリクは結局元の飼い犬に戻され、再び暖かくて、食べ物と寝る場所に困らない暮らしに戻る。自由って何よ・・・と、社会主義批判や、ブルジョワジーvs.プロレタリアートの対立より、そっちがテーマじゃなかろうかと思うんだけれど。

「巨匠とマルガリータ」はいくつかの翻訳があり、どれを読もうかと思いながらどれも買っていない。どうもこちらを先に読んだ人にしてみると、この「犬の心臓」は面白いけれど、「巨匠とマルガリータ」ほどじゃない、というのが大方の意見。「巨匠とマルガリータ」を読んでいない私も何となくそんな気はするので、やっぱりそのうち買わなきゃ、「巨匠とマルガリータ」。
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