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詩人と狂人たち

「ブラウン神父」シリーズに先駆けて書かれたチェスタトンの作品。ブラウン神父を読んだ人に言わせると、その先に登場した「ブラウン神父」との共通項(及び相違)にどうもなるほど、と思えるらしい(私はいまだKindle版をiPhoneにいれてほったらかし・・・)
詩人と狂人たち (創元推理文庫 M チ 3-8)詩人と狂人たち (創元推理文庫 M チ 3-8)
(1977/09)
G.K.チェスタトン

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主人公、そして探偵役は自称、三流詩人、一流画家にして、狂人の理解者、ガブリエル・ゲイル。8篇はどれも殺人事件が起き、それを彼が解決するというミステリーの枠組みを持ちながら、これはもうその域ではない。狂人の理解者たるガブリエル・ゲイルが人間の心を読み解くという心理の解明で、つまり、結果的に謎は解けるのだけれど、何が起きたかではなく、何故起こしたか、なんだよね。

彼は素人探偵自慢なぞ絶対にせず、”星やひとでとか、その他あらゆるちっぽけなものを眺める” ことが何かを学びとることが出来る唯一の方法だと主張し、謎解きにつきものの、証拠を執念深く積み上げていくとか、不可能な犯罪を理論で崩すといったようなトリックの解明はしない。ひたすら狂人(と思われる)人間に同情し、その気持ちに一緒について行くことで、結果謎が解けるという展開。この彼独自の思考が面白さのすべてといっていい。解説によれば、かの江戸川乱歩が、「従来の推理小説が物理的トリック、ないしは心理的トリックの上に築かれているのに対し、これは哲学ないし神学のトリックを目指すものであることを指摘」し、「形而上の手品文学」と云ったとか・・・逆説の大家のチェストンだが、今までその逆説というヤツは、私の浅はかな思考の中では、言葉の魔術師止まりだったのだけれど、今回実感させられるのは、逆説とはそんな上っ面なことじゃなく、”思索”が逆説だということ。エキセントリックな狂人たちの行動に隠れた本質的な人間性を見せたり、あらゆるちっぽけなものをただ眺めることの意味、大概の人間はあるがままに見るということが出来ず、誇張したり核心を見るかわりに、蝕まれた端っこしか見えない、見ようとしない。狂人と片付けて済ませてしまう側こそが正常ではない精神の持ち主ではないのか?

カトリックに改宗し、物質主義・機械万能主義に対して鋭い批判をしたというチェスタトン。逆説の大家ぶりがわかるようなチェスタトン語録というものがWikiにあった。
・ 狂人とは理性を失った人のことではない。狂人とは理性以外のあらゆる物を失った人である。
・ 唯物論者には、完璧に磨き上げられた機械のごとき彼らの宇宙に、ほんのひとかけらの精神性も奇跡も受け入れる自由がない。
・ 人を正気たらしめてきたのは、何あろう神秘主義である。神秘主義の功績、それは即ち人は理解し得ないものの力を借りることで、初めてあらゆるものを理解することができるということである。

詩人で随筆家で批評家で、作家までこなす才能を持ちながら、彼の中心にあったのは、文明批判だったんだろうなと思う。

8篇の中では「ガブリエル・ゲイルの犯罪」が作品としては一番のお気に入り。私のような凡人が読むと、その狂人度合いが凄まじくて素晴らしくて、無気味に恐くて、やたら感動する。が、第1篇と呼応する最終の「危険な収容所」も最終に相応しく、しかもこの見事な作品の閉じ方も捨て難い。この本はガブリエル・ゲイルが探偵(もどき)を務める、ただ事件を並べる短篇集ではなく、副題にもあるような「ガブリエル・ゲイルー生涯の挿話」であることを納得する美しいエンディング。若かった頃の自分を振り返り、自分を救ってくれた人のことを思い出し、そして、その過去が現在に繋がっていて、終わりは始まりに繋がっていた。「四人の申し分なき重罪人」でも思ったけれど、この人はやっぱり天才だと、凡人ながら思う・・・
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