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アントニオ・タブッキ 反復の詩学

昨年3月に亡くなったAntonio Tabucchi。邦訳がでていないものはまだあるだろうに、大御所とはいえ、日本での知名度は知る人なら知っている・・・くらいなのが、チョッと寂しい。著者の花本知子さんは誰だっけ?と思い出してみたら、「他人まかせの自伝」 で和田忠彦さんとともに翻訳をした方。普段評論の類は避けて通るけれど、Tabucchiなら読む。
アントニオ・タブッキ 反復の詩学アントニオ・タブッキ 反復の詩学
(2013/04/01)
花本 知子

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 この花本さん、和田忠彦さんの教え子で、大学時代から研究テーマがTabucchiだそう。正直なところ評論というよりは、なんだか卒論みたいな本だなと思っていたら、本当に博士論文を元に手を加えて本にしたものだった。そういうわけで、正直いうと期待していたようなプンプンするようなブンガク臭はあまりなく、やはり卒論っぽい。何が不満かといえば(笑)、決して読みやすくはないTabucchiの作品を分解して解説してくれている。時にイタリア語文法の時制を持ち出し(過去形にも色々あるらしいが、とんとわからん)、違う名前の同一人物が登場したり、原因と結果という流れが結果と原因という順番で書かれたりを、抜粋した文章に、アンダーラインしたり、番号を振ってみたり、イタリア語の原文を併記してみたり、となんだか大学の講義を聴いている気分になってしまった。そこまで細部に拘るのは私には無理だなあ。で、ごめんよ、その辺りはさっと読み飛ばした。

とはいえ、粗筋はまったく憶えていないのに、面白かった記憶ばかりが残るTabucchi作品、邦訳は何となく読むものの、英語版はかなり苦労したTabucchi作品、その困難さの解説をしてくれたので、わかんなくてもいいのね!と改めて納得はした。更に、同じモチーフがいくつかの作品に登場し、変遷をしていくというのは、細部に拘ったからこそ気付くことで、サラサラ読んで終わりにしちゃう私には云われても気付けないから、再読する楽しみが増えた(いつか・・・)

若い宇宙物理学者と無限についてTabucchiが会話したエピソードが一番印象的。その物理学者曰く、
「宇宙は無限ではない」
宇宙は膨張し続けるエネルギーの固まりで、このエネルギーは無限ではない。そして有限で膨張しているその宇宙の向かう先は「無」であるという。ではその「無」とは何なのだ?そう問われた物理学者の返事は、
「単なるエネルギーの欠落」
こういって彼は噛んでいたガムを膨らまして風船は破裂した。「宇宙は有限」という言葉を聞いたTabucchiの驚きと落胆はその後、彼の作品に登場する。そして作品中にこんな一文を入れる。
”自然界に存在しない何かを考案したなんてすごいじゃないか。しかも、それは凄く重要な何かなんだ。この崇高にして余分な概念を捻出するために、芸術家たちは何世紀にもわたって多大な貢献をしてきた。”
これが子供の頃から夜空を見上げて天体を観測していたTabucchiが作品に埋め込んだ一節。

作家が敢えて作り出し、読者に投げかける作品の空白を読者が埋めていくことが本を読むということ、という意見はとても納得できる。問題はTabucchiの場合、空白が多すぎることで、それが曖昧と混沌を生み出し、自身が認めるほど脈絡のないストーリー展開が更に輪をかける。たぶん、Tabucchiにとって執筆するということは作品を作り上げるという創作活動ではなかったんだろう。モチーフが繰り返されるということは、執筆活動は彼の内なるものの変遷を吐露するためで、作品を世に送り出すという行為は二の次だった気がする。そういう意味で言えば、Tabucchiの執筆活動というのは、極めて個人的なものになる。ということで、最後は彼のインタビューから。。

執筆して心地よくなる物語もあれば、いろいろな意味で痛みをともなう物語もあります。執筆行為とはいったい何なのかと考えてみると、多くの場合、文学作品執筆の表舞台に引っ張り出さなければ中毒症をひきおこすような概念や感覚が自分の中にあって、それを外に提示する必要がある、ということです。だから、骨折りやある種の痛みを伴うにしても、そうした概念や感覚を書くことは、それから開放されるための心地よい手段なのです。

つまり、Tabucchiは書かなければ本当の意味で生きていくことが出来なかったわけだ。
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