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博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話

そして「オックスフォード英語大辞典物語」より数段いいらしい、と評判の方を読んでみる。それにしてもどちらもタイトルがいまひとついただけない。
博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話
(1999/04)
サイモン ウィンチェスター

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切り口は違うものの、こちらもやはりOED誕生物語で、確かにこちらの方がいい。博士とは、OEDの編集責任を任されたジェームズ・マレー博士。そして狂人はというと、謎の協力者であるウィリアム・マイナー。元アメリカ陸軍軍医で、クローソンという小さな村から外に出られなくなってしまった人物。OEDは、英国のみならず、アメリカ、オーストリア等々までボランティアを何千人と募り、読むべき書籍を提示し、一語に付き、1カードを作成し、そこに例文を手で書き写し、それを回収し、ソートして整理するという気の遠くなるような作業の果てに完成した代物。マイナー氏はその最大の協力者の一人であり、「オックスフォード英語大辞典物語」でもさらりと登場したが、彼の数奇な人生を深く掘り下げ、博士との関わり、友情を描いたのがこの本。辞書の誕生までの物語というより、途轍もない大偉業の外郭にあった悲しくもドラマチックな物語になっている。

マイナー氏は南北戦争での悲惨な経験のため精神を病んでしまい(と、云われている)、妄想にとりつかれ、殺人を犯し、精神異常と判断された結果、クローソン村の精神病院に隔離された。スリランカ生まれのマレー氏が南北戦争に巻き込まれていく過程、今まであまり興味のなかったアメリカの南北戦争の惨たらしさは、なかなか圧巻。そしてこの彼の数奇で残酷な運命がなければOEDは生まれなかったかも知れないという皮肉もこれまたなかなか・・・ OEDはプロジェクト開始から完成まで70年の年月を費やしているけれど、85歳まで生きたマイナー氏はその人生の半分はプロジェクトに関わり、最大の功労者の一人になった。だが ”博士”と ”狂人”が対面したのは最初の手紙のやりとりから20年も経過した後。今のように精神を病んだ人に対する理解や科学・医学の解明・治療法も確立していなかった時代のこと、妄想癖に苦しんだ彼が、その救いとして社会の一員でありたいと願いながら、文字通りの狂気の働きでプロジェクトに貢献する。本だから若干脚色はあるにせよ、とにかく凄い人生を見せられてしまったものだ。

狂気の中から誕生したこのOED。言葉とは何かということをやはり考えてしまう。18世紀、まだ英語辞書というものが無かった時代、文学界の大御所たち(あのガリバー旅行記のジョナサン・スウィフトら)は、”英語を固定する”必要性を訴えたらしい。英語の制限を定め、語彙の目録を作って体系化し、”英語とは何か”を厳密に定めること。彼らの主張はその時代には既に英語は充分に改良され純化されたので、ここで固定しなければ、大英帝国という国家の言語である英語は劣化すると主張した。言葉は生き物でそもそも固定という概念に違和感を感じるのは、現代に生きているからで、民族も文化も交じり合いながら変遷してきた英語は、国家の言語というにはあまりにも曖昧過ぎたし、七つの海を制覇した帝国時代に英国のインテリたちには、物理や化学や数学と同様の明確な定義(1mの長さがはっきりと定義されているような)を欲したといわれると、なるほど・・・となる。もっともいくつもの言語に精通し、その歴史を学び、言葉というものを偏愛していたマレー博士には、”英語を固定させる” という概念はなかった、というよりそれは不可能であることは至極承知のことだったらしい。それを知りながら、生き物である言葉の語源を探り、すべての英語の単語を網羅し、一語一語に完璧な定義を与える。博士だって立派な狂人だったに違いないし、おそらく偉大なる功績は狂人により作られるんだろう。
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