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方舟

古本カフェのお兄さんが仕入れてきた。 
「ポルトガルらしいですよ」 
ようやくポルトガル作品の8冊目を書くことが出来る。ポルトガル作品は、ポルトガルなら何でもいいのである。そのくらい、選り好みの余地はないのである。そして、このミゲル・トルガなる著者だって当然初めて聞く名前。出版元は唯一「ポルトガル」というジャンルを持っている彩流社。

方舟 (ミゲル・トルガ)
方舟

私が買った本にはもう帯びは取れていたが、ネットの写真で帯びを読んだら、「ポルトガル文学史上最高の短篇集」 の一文。事の真相はわからないが、とにかく情報量が極端に少ない。この本はグルベンキアン財団というリスボンにある、芸術、科学、教育などの助成を目的とする財団からの出版助成があって刊行された。悲しいことだけれど、助成がなかったら商業ベースに乗らないと判断されて陽の目をみることはなかっただろう。いくら本は読者が好き勝手に読めばよいとはいっても、巻末の訳者の解説は今回は有難く読ませていただいた。以下そこより少々パクリながら、勝手な感想を・・・

この本の原題は「Bichos(動物たち)」だそうである。本書を方舟に喩えて序文を寄せてくれたMiguel Torgaの示唆から邦題が「方舟」になる。方舟、即ち「ノアの方舟」のごとく、人間も動物とみなして、人間が4、人間以外の動物が10、計14の短篇がここには収められている。犬、猫、騾馬、蛙、蝉、烏、鶫(つぐみ)・・・そして人間が4。人間の姿形をしてはいるが、極めて動物的な人間と、擬人化されたまるで人間のような動物の14の物語。擬人化が示唆するものは、”隠された象徴的意味” なんだろうけれど、童話やお伽噺に登場する喋る動物や、人間が勝手に創作するやや作為的な擬人化とは違う気がする。何がどう違うんだろう?と読みながらそればかりを考えていたが、結局分からず。唯一気付いたのは、トルガには、人間様の上から目線がないように思う。人間>動物という暗黙の了解と云ってもいい人間のエゴが感じられない。

作品全体は、正直暗い。困窮、苦難、不安、恐怖、死、そういったものばかり。ポルトガル作品は、特に少し古くなると、地味で生真面目で正直、ちょっと堅苦しい。この作品の擬人化された動物だって、他の人に手に書かれば、人間を可笑しく皮肉ったり、明らかな社会体制批判になったりしたんだろうけれど、この本では、憧れや理想を動物に託しているようにも見える。訳者が解説で云っている ”幸福な「自然状態」” に理想を求めたトルガ。なるほど、それはそうなのかも知れない。独裁政権や軍事クーデターで拘束され、反骨精神をこめた痛烈な告発書も残したらしいが、それは知らなければそこまでは読み取れないほど、声高の批判はない。

「烏のヴィセンテ」という最後の作品は、ノアの方舟に乗せられた烏の物語。人間の犯した姦淫の罪に神が怒り、選ばれし雌雄つがいの動物と、選ばれし人間代表ノアの物語のトルガ的解釈は、脚色が面白くもあり、驚きでもある。カトリックの信仰心厚いポルトガルで、神に楯突くカラスの話し。神の僕どころか、神に叱責されおろおろするばかりのノアと、人間の罪の犠牲になるなど真っ平ゴメンだと方舟を脱走し、超然と神と戦った烏。これだけは2度読んでしまった。

かれの行為は、その瞬間、人類解放の象徴となった。人々を選ばれしものと罰せられるものに分ける専断に対する積極的抗議の声明となったのだ。
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