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顎十郎捕物帳01~捨公方

ということで、 とりあえず、青空文庫から久生十蘭を読んでみた。下はAmazonのサイトにリンクしているけれど、これはkindle版で既に¥0なので、Kindleがあればここからどうぞ。久生十蘭は作品も多いし、過去読んだのも「久生十蘭短篇選」と、「ジゴマ」だけという未開の地。青空文庫の作品サイトにいっても何を選んでよいのやら、しばし呆然とする。”捕物帳”という言葉が目に留まり、1939年~1940年に世に出たシリーズものらしいこれにしてみた。新仮名にはなっているが、読めない難しい漢字はイッパイ!だし、そもそも舞台は江戸末期。大河ドラマを見ている程度の知識ではとてもついていけないくらい、当時の文化背景の知識が要る。いや要らなくても楽しめるけど、あればニヤニヤしながら読むことが出来るんだろうなあ・・ということが容易に想像できる。
顎十郎捕物帳 01 捨公方顎十郎捕物帳 01 捨公方
(2012/10/04)
久生 十蘭

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主人公の顎十郎は何ものかというと、どうも武士の端くれらしいが、皆が手を焼く不良(笑)らしく、自らを風癲と呼ぶ。が、頭は切れるし、どう予想しても体制側に組する人物ではない。そして風貌はというと、まさしくニックネーム顎十郎のごとし。因みに本名は仙波阿古十郎というから、ネーミングからして既に十蘭さんは洒落ている。

眼も鼻も口もみな額際へはねあがって、そこでいっしょくたにごたごたとかたまり、厖大な顎が夕顔棚の夕顔のように、ぶらんとぶらさがっている。唇の下からほぼ四寸がらみはあろう、顔の面積の半分以上が悠々と顎の分になっている。末すぼまりにでもなっているどころか、下へゆくほどいよいよぽってりとしているというのだから、手がつけられない。
 この長大な顎で、風を切って横行濶歩するのだから、衆人の眼をそば立たせずには置かない。甲府勤番中は、陰では誰ひとり、阿古十郎などと呼ぶものはなく、『顎』とか『顎十』とか呼んでいた。
 もっとも、面とむかってそれを口にする勇気のあるものは一人もいない。同役の一人が阿古十郎の前で、なにげなく自分の顎を掻いたばかりに、抜打ちに斬りかけられ、危く命をおとすところだった。
 またもう一人は、顎に膏薬を貼ったまま阿古十郎の前へ出たので、襟首をとって曳きずり廻されたうえ、大溝に叩きこまれて散々な目に逢った。阿古十郎の前では、顎という言葉はもちろん、およそ顎を連想させるしぐさは一切禁物なのである。


顎に膏薬を貼って顎十郎に対面してしまったヤツがボコボコにされたくだりを、先ずは笑っていただきたい。

第一回の捕物帳は、13代将軍家定に双生児の兄弟がいたという秘密を知った大老・水野越前守(水野忠邦だ)の悪だくみを阻止せよ、というもの。世継ぎの揉め事を避けるために、生まれてすぐ寺に預けられ、捨蔵と名づけられたこの子はしかし、10歳になろうという時に僧になるのを嫌い寺から出走してしまう。捨蔵を何十年も探し回った寺のお坊さんが、ある日江戸に向かってフラフラと街道を行く顎十郎に声をかける。何故オイラなんだと、顎十郎でなくても疑問に思うはずだが、その理由が、
「この月の今日、申の刻に、あなたがここを通りあわすことは、未生前からの約束でな、この宿縁をまぬかれることは出来申さぬのじゃ」
ときたもんだ。とにもかくにも最後は草加の村はずれで寺小屋をしながら平和に暮らしている捨蔵を見つけ出し、大老・水野越前守は失脚する。捨蔵はというと、その後ようやく剃髪する決心をし寺に入ったとうわけ。めでたし、めでたし・・・・

余談だが、捨蔵が入った寺はご近所上野の輪王寺。あの寛永寺傘下(?)の由緒ある寺なのである。江戸の下町の古い地名などもチラチラと出てきてそれもまた楽しい。
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