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皇帝のバラ

古本カフェがこっそり仕入れていた。イタリア人作家なのでとりあえず安かったので買ってみる。
”カフカ、ボルヘスに衝迫して全世界を驚かせた鬼才マレルバ” 
と帯に書かれていたので、なわきゃあない・・・ と期待もしていなかった。そして読んだら、驚いた。

皇帝のバラ―幻想掌篇集 (1976年) ルイージ・マレルバ
皇帝のバラ

「海の水の青色で絵を描こうとして発狂する大臣、巨大なふいごの起こす風の仕切りで都市を建設した建築家、手のひらひとつ分皇帝の布告を無視して旅するあまのじゃくな商人……。他方、永遠の観念にとりつかれると思えば、わけもない悲哀にうちふさいで産褥の女の乳房に二週間もくらいつく皇帝……。古代中国を舞台に18の掌篇にちりばめられた皇帝と臣民たちの面妖な対位の風景のなか、見るも小気味よく、聞くも無残、いとも軽快に首が刎ねられ、首が転がる。そして、流れた血が皇帝のバラを真紅に花開かせる―。超現実的で、アレゴリックで、奇妙に生々しく、不思議な幻覚を強いる、苛酷な現代の寓話。カフカ、ボルヘスに衝迫して全世界を驚かせた鬼才マレルバの野心作!」


カフカとボルヘスと並べるのはどうかと思うけれど、帯の紹介は壮言大語と相場は決まっているのに、これはまさしく。各短篇のタイトルを見てもその不思議さがわかる。
第一話 皇帝の眠り
第二話 息づかいの芸人
第三話 迷言君主
第四話 たとえの文章家
第五話 季節の大臣
第六話 風の建築家
第七話 大道魔術師
第八話 地図にない王国
第九話 眠る天文学者
第十話 ごきぶり学者
第十一話 地図から盗まれた山
第十二話 詩作競争
第十三話 あまのじゃくな皮商人
第十四話 水の大臣
第十五話 百姓詩人
第十六話 壺と魔術師
第十七話 ふたりの退職役人
第十八話 皇帝の哀しみ

西洋が空想し思い描く中国。「白髪三千丈のお国」と大学の時の中国政治専門の先生が云っていた言葉を思い出した。マレルバがそれを知っていたとは思えないけれど、法螺に近いほどの壮大さが中国には確かにある。私にとっては近くて遠い国、実は何も知らない中国。イタリアの幻想小説からイメージされる幻想さとは完全に違う異境の物語だった。短篇のほとんどは、皇帝の命により、バッサ、バッサ、といとも簡単に斬首の刑を執行されて終わる。庶民も詩人も建築家も、天文学者も、高級官僚も、大道芸人も。。。 皇帝の無理難題は、太陽を西から昇らせろ!的な無理難題で、それが叶わぬときには命はない。何よりも大事なのは皇帝の威厳なのである。が、そんな残酷な場面が次から次へと繰り返されても、残虐非道な印象は全くない。イタリア史で云えば、皇帝ネロのような人を想像すればいいのか?しかしネロにはリアルさがある。でもここにはない。皇帝個人の欲得とか豪奢な暮らしのためとか、そういった世俗的なものとは無縁の、神や自然の摂理をも超越するような皇帝の威厳なので、ねっとりした暑苦しさもなく、ひたすら冷たい印象。寓話的であり、権力への風刺もたっぷり含まれてはいるけれど、そんな社会正義的な捉え方より、是非とも壮大なる残酷さを味うことをお薦めしたい。

ところで、Luigi Malerba って何者なんだろう?邦訳はたった3冊。読了前にAmazonに行って残りの2冊をポチポチとしてしまった。復刊のリクエストも出ているけれど、古書のお値段は手頃、つまり人気はないのか?いや知名度が低すぎるのか?ググってみても、日本語どころか、英語でもヒットせず、イタリア語が画面に並んだので困った。Wiki英語版(イタリア語版の完全コピペ記事だな)でかろうじて情報をいただく。なんでも、ウンベルト・エーコが、
"Malerba was defined post-modern, but that's not all true, because he is maliciously ironic, unpredictable, and ambiguous"
と云ったらしい。とりあえず世界的にメジャーな存在ではないかもしれないが、所謂ありきたりの名声を欲するタイプではなく、絶対に世間を煙に巻く天邪鬼タイプだったに違いない。
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[C442] ああ、ここに来ると・・・

いつもと変わらぬ時間と風がながれているよ
  • 2013-09-05 21:06
  • さかい@多言語多読
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[C443] ここは聖域

本を読むことは私にとって大事な現実逃避で、その現実逃避の聖域となっているのが、このサイト。
ちょっとやそっとじゃ、崩さない。
  • 2013-09-06 00:56
  • Green
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