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顎十郎捕物帳03~都鳥

いやはや、すっかり気に入ってしまった捕物帳。15分程度で読める短篇1つ1つにブログ記事を書いていたら、この捕物帳だけで24個もの記事を書かにゃあならん。
顎十郎捕物帳 03 都鳥顎十郎捕物帳 03 都鳥
(2012/10/04)
久生 十蘭

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とにかく出だしが実にいい。

「はて、いい天気だの」
 紙魚(しみ)くいだらけの古帳面を、部屋いっぱいにとりちらしたなかで、乾割(ひわ)れた、蠅のくそだらけの床柱に凭れ、ふところから手の先だけを出し、馬鹿長い顎の先をつまみながら、のんびりと空を見あげている。
 ぼろ畳の上に、もったいないような陽ざしがいっぱいにさしこみ、物干のおしめに陽炎がたっている。
 あすは雛の節句で、十軒店や人形町の雛市はさぞたいへんな人出だろうが、本郷弓町の、ここら、めくら長屋では節句だとて一向にかわりもない。
 露路奥の浪人ものは、縁へ出て、片襷(かただすき)で傘の下張りにせいを出し、となりの隠居は歯ぬけ謡(うたい)。井戸端では、摺鉢の蜆(しじみ)ッ貝をゆする音がざくざく。
「……どうやら、今日の昼食も蜆汁になりそうだの。……いくら蜆が春の季題でも、こう、たてつづけではふせぎがつかねえ……ひとつ、また叔父のところへ出かけて、小遣にありついてくべえか。……中洲の四季庵にごぶさたしてから、もう、久しくなる」
 と、ぼやきながら、煙管(きせる)で煙草盆をひきよせ、五匁玉の粉ばかりになったのを雁首ですくいあげて、悠長に煙をふきはじめる。


「歯ぬけ謡」って何?
「めくら長屋」って何?
「五匁玉の粉ばかりになったのを雁首ですくいあげて」って何?
と色々不明点は多いものの、桃の節句を控えた初春の江戸下町の長閑さがたまらない。

馬の尻尾を切って回った男が不思議な辞世の句を残して切腹。支那から仕入れた呉絽(ごろ)なる生地で大儲けする呉服屋と、その呉絽の帯に織り込まれた都鳥の模様。鎌倉河岸にあがった比丘尼(びくに)の水死体。馬の尻尾が片っ端から切られた理由。支那にいないはずの都鳥が、支那製の帯に織り込まれている理由。比丘尼の水死体は水を飲んでおらず、本当の比丘尼でもない。どう考えても並みの人間には3つは繋げられないが、顎十郎はこの謎を解いちゃうんだなあ・・・3つをつなげるものは、悲しい悲しい物語だったので、今回はめでたし、めでたし、で終了はしなかったが、この謎々は素晴らしかった。

そっか、蜆は春が旬だったんだ、とどうでもいいところで感心をし、干したばかりの水分たっぷりのオシメから陽炎が立つ様は、洗濯機が普及した今じゃあ、絶対にお目にかかれまい。さて最後に、「めくら長屋」は何かというと、通路に面した方に窓のない長屋だと云われた。しかし、めくら長屋でググっても、『盲長屋梅加賀鳶 』(めくらながや うめが かがとび)なる歌舞伎の演目ばかりがヒットして、ヴィジュアルが探せない。まあ、いいか。となりの隠居の下手くそな謡と、蜆をゆする音と、顎十郎がのんびりと放つ「いい天気だの」の声を聞きながら (聞いた気になりながら) 今回も終了。
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