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パリ・ロンドン放浪記

「1984」(未読)や「Animal Farm」(既読)のGeorge Orwellからは、社会民主主義だの、反ファシズムだの、反スターリニズムの固いイメージしかなく、彼の作品を読むなんて意識はこれっぽっちもなかったが、(The) 古本カフェは恐ろしいところで、こんな本をこっそり並べている。古本カフェのお兄さんも ”面白いですよ” とご推薦のGeorge Orwellのデビュー作、実は放浪記ではなく、自ら体験した窮乏生活を綴ったルポルタージュ。1927年から3年間にわたるパリの貧民街での生活、ロンドンの浮浪者の世界を描いている。原題は「Down and Out in Paris and London」
パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)
(1989/04/17)
ジョージ・オーウェル

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前半のパリ篇はルポルタージュと云われなければ、まるでフィクションのような「皿洗いの日記」だが、後半ロンドン篇は徐々にルポルタージュの要素が強くなり、最後は放浪者論とそれに対する国家政策のあるべき姿まで論じる。そういう意味ではパリ篇の「皿洗いの日記」はパリのスラム街の喧騒と雑多さ卑猥さ、何よりもレストランやホテルの厨房や貧民街がいかに不潔かが、あまりにも生々しい描写で驚くやら、笑うやら、臭いが本から染み出てきそうなくらい凄い。ロンドン篇で感心するのは、浮浪者がいかに暮らしているかの事細かな観察。一泊しか許可されないスパイクと呼ばれる浮浪者臨時宿泊所の実体と、そこを渡り歩く人たちからの最低限で喰うための知恵とノウハウ(具体的にあーだこーだと書いてみたいところだが、全篇それなので、列挙していられない)。パリとロンドンの比較もこれまた面白いところで、パリは総じて明るく活気(?!)があるが、ロンドンに戻った途端笑いが皮肉になり、活気が無気力に代わる。

1930年頃の世界の二大都市の姿でありながら、最後の大論文たるや、まるで現代にまで通じる社会論になっているところは、さすが「1984」の作者らしい。自ら浮浪者の中に飛び込んで書いたまさに渾身のルポルタージュだが、観察眼の鋭さがとにかく光る。

現在、エネルギーとか効率、社会的便宜などが論じられるとき問題になるのは、ただ一つ「金を儲けよ、それも合法的に、そして莫大に」ということだけではないか。完全に金が道徳基準になってしまったのだ。物乞いは、この基準によって失格し、この基準によって軽蔑されるのである。物乞いという行為によって一週間に十ポンドでも儲けようものなら、物乞いはたちまちにしてれっきとした職業になるだろう。現実的に見れば、物乞いも他の商売人とおなじく、手近な方法で生活費を得ている商売人にすぎないのだ。むしろ、物乞いは、ほとんどの現代人ほど名誉を売ったりしていない。単に、金持ちになれない商売を選ぶという過ちを犯しただけなのである。

と、このあたりはやや人文系の香りがするが、さらに発展して、英国の浮浪者対策は国家にとっていかに決定的な損失となっているかをぶち上げ、その改善策が細かく、宿泊施設のベッドや毛布や食事をどうすべきか、そこで彼らをどのように働かせるか、そしてそのために法律をどう変更すべきか・・・ 

労働者の悲惨な暮らしを描いた本は多々あれど、それに終始せず、また貧乏礼讃的な間違った清貧論にもなっていない。清く正しい質素な暮らしのススメではなく、あくまで人間が人間性を失わずに生きる前向きなルポルタージュなところがGeorge Orwellだった。
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