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HHhH プラハ、1942年

Hの連打はただの飾りではなく、装丁の模様でもなく、
Himmlers Hirn heißt Hezdrich (ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)
の略。紹介された海外の論評は絶賛だそうで、ゴンクール賞最優秀新人賞受賞作、リーヴル・ド・ポッシュ読者大賞受賞作、しかもベストセラー。
HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)
(2013/06/28)
ローラン・ビネ

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フィクション、ノンフィクション問わず、ナチスものの作品はそれこそ星の数ほどある。そこまで嘗め尽くされているナチスものを、目から鱗の手法で書き上げた、ノンフィクションノベルにして歴史小説。でも語りは一人称というだけでなく、Laurent Binet本人。常に視点は本人なのである。虚構を混ぜず、史実に細部に忠実であれと強迫観念のようにこだわりながら、本書は常に著者がしゃしゃり出てくる。主観が入りすぎるとの批判もでそうだが、気付けば結局はローラン・ビネの疾走とともに、自分も走っているような感覚に陥る。歴史小説にありがちな、著者の個性や意見や心情を排したものとは、全くもって対照的な構成。257もの断章に分かれたそのスピード感と緊張感と、クライマックスへの突入は、まるでスパイ映画かスリラー小説のようだが、紛れも無くこれは史実なのだそう。

ヒムラーの頭脳と呼ばれたラインハルト・ハイドリヒは、”第三帝国で最も危険な男” ”金髪の野獣” と呼ばれたナチスの高官。瞬く間にナチス内でのし上がり、ヒトラーも一目置くほどの人物となり、ナチスにより保護領となったチェコの総督代理、実質的には支配者となり、プラハに赴任する。この人物の暗殺計画を立てたのは、ロンドン亡命中のチェコ政府が送り込んだ二人のパラシュート部隊員。

暗殺計画は一応成功し、ハイドリヒは亡き者となるが、結末は悲惨なものになる。ナチス高官暗殺への徹底的な報復として、教会の地下納骨堂に隠れていた暗殺者たちは、その場所を突き止められ、銃撃戦の果て、水攻めにあい死んでいく。彼らだけでなく、この暗殺計画に関わった者たち、匿った協力者への拷問や銃殺、さらには濡れ衣を着せられたリディツェ村は住人ごと地上から消される。この狂気も史実。

ローラン・ビネの執念、史実を細部にまで突き止めるための資料の山と彼の行動力は、本に書かれた何百倍にもなるのだろう。全篇を通して彼が自らに問う、「小説とは何か」 「事実とは何か」 「歴史とは何か」に対する答えを探してもがく苦悩もさることながら、そこまでして彼が知りたかったのは、手に入った資料や、今も残る遺品からは見えないもの、今となっては聞くことが出来ない声、見ることの出来ない瞬間もやはり歴史であり、それをどうにかしてすくい上げようとする情熱なのだろうと思う。今となっては自己弁護も出来ない死者たちを、勝手な作り事や虚構で飾り立てない、これが埋もれてしまった者たちへの彼なりの追悼か?暗殺事件は一つの史実ではあるけれど、それは完結したものではなく、今直続く歴史の一端なのだと思う。
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コメント

[C450] Heidrich が出てくるよ!

Philip Kerr のBerlin Noir シリーズ第8作だったかな? 出てきます。
  • 2013-11-21 19:57
  • さかい@多言語多読
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  • 編集

[C451] ああ、ご当地ものの・・・

そうなのかあ。問題はシリーズものだから、そこに辿り着くまでに7作読破しなきゃいけないってことだな。では、「HHhH プラハ、1942年」でも読みながら、待っていて下さい。
  • 2013-11-22 01:50
  • Green
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  • 編集

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Author:Green
夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

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