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境界なき土地

「三つのブルジョワ物語」 と 「隣りの庭」 に続くJosé Donoso。最近嬉しい復刊をやらかしてくれる個人的には大注目の水声社の、これまたドキドキするような「フィクションのエル・ドラード」シリーズ。あの幻の『夜のみだらな鳥』がこのシリーズで近く発売されるというニュースを知り、”その前にこれでも読んどいてくれよ!”ということで、出版された(らしい)。
境界なき土地 (フィクションのエル・ドラード)境界なき土地 (フィクションのエル・ドラード)
(2013/07)
ホセ ドノソ

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出だしですっ飛ばすタイプではないホセ・ドノソの今回の作品も、最初はなんだ?ってな感じだが、あれよ、あれよ、という間にその屈折した、卑猥で、暴力的で、時に可笑しく、でも何とも倒錯した暗い破滅型の展開にはまっていく。この人の作品は根が暗いんだ・・・ 

他の土地は好きなようにすればいいけど、私はここに残る、この家に残るのよ。人が来なくなったってかまわない、すべてが終わりゆくだけ。終わりゆくのはいつも平和、変わらないものはいつも終わりを目指し、終わりへと近づいていく。恐ろしいのは希望。

そんなことを云うマヌエラ、私はアンタの方が恐ろしい。

舞台は滅び行く貧しい村の娼館。電気も通らない村は時なんてものは存在していないかのよう。冒頭マヌエラが目覚めるシーンから始まるこの物語。当然女性だと思いながら、途中でなんかおかしい。マヌエラは(生物的には)男だった。”おかまのダンサー” のマヌエラはオカマゆえに男たちにはからかわれ、地の文に乱発される彼女の独白。娘のハポネシータはそんなマヌエラに冷たく、土地に縛り付けられ、娼館を切り盛りし、でも女性としてはギスギスした欠陥品であり、揚句に父親に男を取られる。土地のボス、ドン・アレホはいばりくさり、そいつに金を借りているパンチョはマッチョなくせに、甲斐性がなくトラックひとつで借金から逃れようともがく。ドン・アレホの飼っている4匹の悪魔にとりつかれたような獰猛な犬。

モノクロームの寒村で唯一の色は赤。マヌエラの赤のドレスとパンチョの赤いトラック。そんな残像を残して終わる希望の欠片もない物語は、ルイス・ブニュエル監督が惚れこんで映画化しようとしたが果たしえず、最終的にはメキシコのアルトゥーロ・リップステインが映画化し、何とその台本を書いたのが「蜘蛛女のキス」のマヌエル・ブイグ。聞いただけでゾクソクする話だ。もっと凄い話しは、残された日記や創作ノートに自らの記憶を織り交ぜて彼の伝記を書いたドノソの養女の話し。生前から病的な奇行と性癖の噂があったドノソの生涯は、野次馬的に是非覗きたいところだが、彼女の描いた自伝に書かれた衝撃は大きかったらしい。凄い話しはここからで、この自伝が書かれた2年後、彼女は44歳の若さで服毒自殺を遂げる。そして父親の残した創作ノートには、作家である父親の死後、秘密の日記を読んで自殺を決意する娘を主人公にした小説の構想が書かれいた。

『錯綜した神経症的世界と豊かな文学的想像力』(マリオ・バルガス・リョサ)という帯びの言葉は伊達じゃなかった。ドノソ自身も、「あらゆる生物が歪み、普通とされる次元を失っていき、道徳的、性的、感情的に正常とされるものの規範が意味を失って、バラバラと崩れ落ちてゆく」 とこの作品を語っている。リョサとドノソは親友であり続けたが、フランス小説愛好者のリョサと、イギリス小説を敬愛するドノソの文学的嗜好は全く相容れず、でもリョサは彼の作品に惜しみない賛辞を送った。それがこの言葉。

フィクションのエル・ドラード、近刊情報は、『夜のみだらな鳥』だけでなく、カルペンティエルやコルタサル、オネッティまで予定されている。涎が出そうなくらいブラボーだ!!
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Author:Green
夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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