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神経内科医の文学診断

古本カフェのお兄さんに勧められるがままに購入。著者の岩田誠さんは神経内科の分野では権威。そのくせ、どうも大変な文学好きで、神経内科医として興味深い症状が出てくる作品を題材に医学雑誌のコラムに文学談義を掲載しており(医学雑誌にもコラムなんてあるのか・・・)、そのコラムをまとめたのがこの本。しかもこの岩田氏、東大医学部時代にアテネ・フランスに通い、その後フランス滞在経験もあり、フランス語原文のままフランス文学が読めちゃうらしい。購入の決め手になったのは、取り上げられた本たちの凄さ。大御所揃いというか、きっと多忙な毎日だろうにこんな重厚な本をこんなに読んでるのか!と驚いた。私なんかではとても太刀打ちできない。いつか読まなきゃなあ・・・クラスの名著・古典がどか~~んと並ぶ。
神経内科医の文学診断神経内科医の文学診断
(2008/04/02)
岩田 誠

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さて、どのくらい凄い品揃えかというとこんなラインアップ。(ちなみに先頭の印の意味は、◎=読んだ 〇=未読本棚にある △=タイトルは知ってる X=うっ、知らない)

△ アンドレ・ブルトン 『ナジャ』
△ 谷崎潤一郎 『鍵』
△(正確にいうと、挫折) マルセル・プルースト 『失われた時を求めて』
X ウィリアム・アイリッシュ 『じっと見ている目』
△ 松本清張 『或る「小倉日記」伝』
X 森鴎外 『澀江抽齋(しぶえちゅうさい)』
△ ナサニエル・ホーソーン 『七破風の屋敷』
X アーサー・L・ピコット 『ウィングス』
△ ベルンハルト・シュリンク 『朗読者』
△ ルイス・キャロル 『鏡の国のアリス』
△ ミゲル・デ・セルバンテス 『ドン・キホーテ』
△ ウィリアム・シェイクスピア 『マクベス』
◎ アントニオ・タブッキ 『レクイエム』
△ 芥川龍之介 『歯車』
△ 井上ひさし 『頭痛肩こり樋口一葉』
〇 ジャン=ポール・サルトル 『嘔吐』
X ローラン・ベネギ 『パリのレストラン』
△ オレノ・ド・バルザック 『ゴリオ爺さん』
〇 マルグリット・ユルスナール 『黒の過程』
△ エドモン・ロスタン 『シラノ・ド・ベルジュラック』
X モーリス・ドリュオン 『呪われた王たち』
X 司馬遼太郎 『胡蝶の夢』
X 北条民雄 『癩院受胎』
X 説教浄瑠璃 『しんとく丸』
X ラモン・サンペドロ 『海を飛ぶ夢』
△ 夏目漱石 『門』
△ 北杜夫 『楡家の人びと』
△ トーマス・マン 『ブッデンブローク家の人びと』
◎(但し高校時代) ロジェ・マルタン・デュ・ガール 『チボー家の人々』
◎ ナタリア・ギンズブルグ 『マンゾーニ家の人々』

生真面目な論評でもなく、自身のプロフェッショナルを全面に押し出した医学解説ということでもない。もちろん一話づつ、その作品に現れる症状を医学的に述べてはくれるが、これが医学的に在り得ないだの、詳細はこうだの、というお仕着せがましさが全くなく、その症状を突破口とした独自の文学語りというのがなかなか好感が持てる、いや、素人の私をも楽しませてくれる。文章もどこといって奇をてらったり、格調高く見せかけようなんて嫌らしさもなく、素直で平易で読みやすくて、楽しい。出版側の販売戦略意図として、帯には「脳と神経の第一人者が三十文学を診る」だとか、「あの小説のあの場面がもう一度読みたくなる」とかキャッチーなことを書いてくれているが、いやいや、ご本人は純粋に人間の身体から心を探ろうとしているだけなんじゃないかなぁ。実は人類学者になりたかったと作品中にあるが、”人類学者になりたかったら、まず医学を学べ”と恩師に云われ、いまだ医者のままだというのがご本人の弁。

これだけを読んでいることも凄いが、私が思いっきり反省したのは、この方、再読が多い。子供の頃児童文学で読んだが、大人になってフルバージョンを読んだら、実はこんなだったとか、学生時代、流行と見栄で読んではみたけれど、数十年経って改めて読み直したら、こんな気付きがあったとか、再読を後回しにしている私としては、恐れ入ってしまったのである。でも、数少ない再読本、安部公房の『壁』を30年ぶりに読んだ時、何に驚いたかというと、記憶の中の『壁』と目の前の『壁』があまりにも違っていることだった。再読しなきゃねぇ~~

本を読むというのは、人それぞれ違った視点があっていいんだなと改めて思わせてくれる。で、そこが自由で意外で面白い。そしてどれだけ専門家になろうとも、専門バカになっちゃいけないんだなぁ、とも気付かせてくれる。そこしか見ていないとそれしか見えなくなる。医者というものは、身体も心も診るものなんだと、この方日々本を読みながら、そんなことを改めて思っているのかも知れない。
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

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