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マヨラナの失踪~消えた若き天才物理学者の謎

1976年、出帆社刊の今となっては40年近くも前の古書。画像が見つけられなかったので、仕方なく自分で撮影した。

マヨラナの失踪―消えた若き天才物理学者の謎 (1976年)
マヨナラ

今この本を検索すると、こっちばかりがヒットする。こちらは昨年出版されたばかりの本だけれど、著者は別。

マヨラナ―消えた天才物理学者を追うマヨラナ―消えた天才物理学者を追う
(2013/05/25)
ジョアオ・マゲイジョ

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消えた天才物理学者とは、1906年シチリア生まれのエットーレ・マヨラナなる人物なのだが、物理の世界になど間違っていも近づけない私は全く未知の人物。しかしその世界においては、その天才ぶりといまだその失踪事件が謎ということで、よく知られた方なのだそう。時はファシズム全盛期、31歳の時にイタリア・シチリア島のパレルモからナポリ行きの船に乗り、それっきり消息を絶つ。遺書らしきものは残されていたが、遺体は収容されないし、目撃証言も出続け、その消息は謎。おかげで自殺説、外国による誘拐説、亡命説などあっちこっちで噂だらけ。物理学者としての彼の功績は、中性子とかニュートリノとか、なんかそういうものに関連したマヨナラ粒子の発見だというが、全然わからんので突き詰めないが、要は原子爆弾にも繋がる研究なんだと。まともな研究者であったなら、ノーベル賞クラスだったという。

が、天才は往々にして変人であるというのが世の常。彼はコンピューターを駆使しなければ計算できないような計算を暗算でやってのけるし、当時最高級の頭脳がウンウンうなりながら考えるような問題を、タバコの箱に計算を走り書きをしては、こんなものは・・・とポイと投げ捨てる(ノーベル賞が屑篭行き)。寡黙で人付き合いもあまりなく、同僚との間にも壁がある。マヨラナにとって物理学も研究も意志の行為ではなく、”自然な行為” であり、超一流の科学者たちが愛し、そこに到達しようと願っている科学は、マヨナラにとっては愛しているわけでもなく、単に ”身に備わっていた” ものでしかない。

著者のレオナルド・シャーシャ(Leonardo Sciascia)もシチリア生まれ。文学史上初めてマフィアをイタリアの社会悪として告発する物語小説を書いたり、作品自体はかなり社会性の強いものが多いが、ジャーナリズムとは一線を引き、推理小説の技法をとりながら、純粋な推理小説ではなく、でも変形ながらも実体としてはあくまで純文学(と、あとがきで訳者の千種堅氏は述べている)。

ジャーナリズムとは違う天才物理学者失踪の謎は、当然ながら真実がどうだったかという謎解きではないので、読み終わっても謎は謎のままで終わる。自殺ではどうもなさそうだが、当時ムッソリーニの命令も出たという捜索活動は国家の陰謀説もあるし、「物理学は間違った道を進んでいる、われわれはみな間違った道を進んでいる」という言葉を残した彼が、何かを恐れ絶望し自殺を装い逃避したのかも知れない。作品は下手な煽りもなく、寡黙なマヨラナ故、発した言葉も少なく、そんなことでかえって興味がそそられてしまう。ジョアオ・マゲイジョ作(彼はそもそも物理学者らしい)の方のマヨナラも、なかなかよい書評が並ぶので、再度別バージョンにも飛んでみたくなる。

天才というものは、凡人からみると本当に面白い(そして天才本人には決してその面白さはわからない)。
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