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オーウェル評論集

「パリ・ロンドン放浪記」に影響を受けたから、というわけでもないが、再度George Orwellの登場。辛うじて読んだ「Animal Farm」は実はあまり好きではない。どうにもこうにも政治色が強すぎる。ノンポリのじゃぱにーずは政治談議が苦手である。この本を買ったのは、実はここに「ウッドハウス弁護」という一篇があると知ったから。P・G・ウッドハウスが、第二次大戦中にフランスでドイツ軍に拉致され、ナチスが米英へ向けて放送していたラジオ声明に出演させられる、という事件があった。その出演でウッドハウスは捕虜生活の不平を面白おかしく語ったり、知り合ったドイツ軍将校について好意的な意見を述べたりしたため、英国内で厳しい非難を受けたという。この弁護をちょっと聞いてみたかった。
オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)
(1982/04/16)
ジョージ・オーウェル

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「なぜ書くか」
「絞首刑」
「象を撃つ」
「チャールズ・ディケンズ」
「鯨の腹の中で -ヘンリー・ミラーと現代の小説」
「書評 -アドルフ・ヒットラー著『わが闘争』」
「思いつくままに」
「ラフルズとミス・ブランディシュ -探偵小説と現代文化」
「英国におけるユダヤ人差別」
「P・G・ウドハウス弁護」
「ナショナリズムについて」
「出版の自由 -『動物農場』序文」

前半は専らビルマ勤務時代に経験した帝国植民地政策(の批判)、そしてディケンズとヘンリー・ミラーは文学評論(書評ではない)、そして後半は社会問題提起、時事評論、の域を超えてこれはもう思想。「パリ・ロンドン放浪記」は実体験に基づくルポルタージュだが、George Orwellの真髄は小説ではなく、評論にあるのだと、やっと気づいた私。書かれたのは、1940年前後で、当時のイギリス情勢については、世界史の教科書程度の知識しかない。枢軸国に対抗する連合国の一員であるイギリス国内で親ソの風潮がかなり強かったことは驚く。世間はまだソ連共産主義に対して好意的な意見を持っていた。そんな時代に既に、その全体主義思想を批判している。

「パリ・ロンドン放浪記」を読んだからこそ納得したのは、彼の評論は実体験に基づく強い自信があること。それが中途半端で知ったかぶりをして、観念論を戦わせる程度の優柔不断な知識人との違いなのだろう。日和見主義的な信念の欠如はそこにはないのだが、彼は急進的な革命家でもないし、むしろ良き英国の保守を標榜し、現実社会で生きる人間が持つ弱さも矛盾も本音の部分も承知している。そして社会を作るのは、決してイデオロギーや形態の問題ではなく、個々人の良識や愛情や善意から出発するというのは、政治家的発想ではなく、やはり文学者として世に警告を発するこを使命としたのだろう。

たいていの革命家は潜在的保守主義者である。なぜならば、社会の形態さえ変えれば万事が解決されると空想しているからだ。そして往々にしてこの変革が達成されると、それで事足れリとしてしまう。

正統思想の有無に目くじらを立てている人間や、自分の非正統性に良心をビクつかせている人間に、良い小説は書けないのだ。良い小説を書くのは怯えていない人間なのである。

最初は”評論”に惑わされ、汗をかきかき読んでいたが、ふと気づくと理由もわからず引き込まれていた。そして最後の「出版の自由 -『動物農場』序文」のエンディングはもう圧巻である。

もし自由になんらかの意味があるとするならば、それは相手が聞きたがらないことを相手に告げる権利をさすのである。・・・・自由を恐れているのは自由主義者であり、知性に泥を塗りたがるのは知識人なのだ。私がこの序文を書いたのは、その事実を認識してもらうためである。

そうそう、「ウッドハウス弁護」だが、ウッドハウスの英国を敵に回した親ナチ(?)発言は、オーウェルに云わせると、「政治的な単純無知」。1900年初頭に作品を多く残した彼はそこで時計を完全にとめ、1930~40年代の政治的背景についてはまったく無知であった。要は、政治的には完全なお馬鹿さん状態であった・・・・ ディケンズやヘンリー・ミラーの作品をまったく読んでいない私には、これらの文学評論はもうチンプンカンプンだったが、「ウッドハウス弁護」については、フンフンと納得させられてしまった。そうウッドハウスの作品は、色気も思想もまったくない、人畜無害で善良なお金持ちしか登場しない。それは英国上流社会批判なんかでは全然ないのだが、一歩英国の外に出ると、あれは上流社会批判に化けていた。それをまんまと利用したのがナチであった。なるほどね。
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