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久生十蘭ジュラネスク

先週金曜日に古本カフェにいくと、久生十蘭の文庫本が4-5冊入荷している。わからないので、適当に2冊ください、と云って買った1冊がこれ。その4-5冊すべての帯には、”澁澤龍彥絶賛” とあり、それには思わず、クスっと笑う。出版社も芸がないなァ。龍彥さんにばかり絶賛されて、十蘭さんも苦い顔をしてやしないか?
久生十蘭ジュラネスク---珠玉傑作集 (河出文庫)久生十蘭ジュラネスク---珠玉傑作集 (河出文庫)
(2010/06/04)
久生 十蘭

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「ジゴマ」を除けば、最初に読んだ「久生十蘭短篇選」の方が、よい意味で広く浅く久生十蘭を読めるので、初心者だった私にはよかった。こちらは少し厳選の10篇で、文庫や単行本では読めないものばかりを収録しているらしい。「十面体の黒ダイヤ」と呼ばれるらしいが、このバラエティーの広さには舌を巻く(玄人のプロ作家でもきっと舌を巻く)。

「生霊」
「南部の鼻曲り」
「葡萄蔓の束」
「無惨やな」」
「遣米日
「藤九郎の島」
「美国横断鉄路」
「影の人」
「その後」
「死亡通知」

おしゃべりで失敗してしまうベルナアルさんの話し、「葡萄蔓の束」がやっぱり好きだ。もう少しで修道士になれるところで沈黙の戒律を破り、罰として労働士に下げられる、ということを何度も繰り返しているベルナアルさん。悪気はないけれど、しゃべりすぎて愛する人をいたく傷つけ、しゃべらずにすむ修道院に入ったものの、しゃべるのをどうしても我慢することができない。そんな悲しいような可笑しいような話しなんだけれど、北海道のある岬の先端(虹の岬!)に建つ修道院の風景描写がため息もの。今回久生 十蘭の風景描写の上手さに初めて気づいた。ついついそういう描写は飛ばし読みしてしまう私だが、彼の作品の場合は飛ばさせないで読まされる。七五調の軽妙洒脱な会話は相変わらず好きだが、最初の2ページにわたる北海道の春を告げるスタートは、この先何もなくてもいいや、と思うくらい。

ミステリー仕立ての「死亡通知」も一番長くて50ページほどあるが、途中で止められない。実は帰路の山手線でこれを読み始めたところで、線路に人が入ったとかで、運転見合わせのアナウンス。運転再開見込みは30分後。向かいの京浜東北線にどっと人が流れていく中、ラッキーとばかりにゆったりガラガラの山手線で読み耽る。読み終わった頃にめでたく、運転再開。急いでいない時の運転見合わせに喜んでしまうのは初めてではない。

打って変わって、時代ものでも捕物帳的なものはいいんだが、史実に基づくと思われる「遣米日記」や「美国横断鉄路」は、ちょっと辛い。あまりに残酷・冷酷で、その非情さは先日読んだ「紀ノ上一族」以上だった。史実なんだろうと思うと尚のこと辛い。が、北海道の春の描写も、残酷非道な描写を淡々と描くのも、結局は同じコインの裏表のような気がしてくる。

そんなこんなで、とりあえず家にはもう1冊文庫があるので、十蘭さんは近々に再登場予定。
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