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辺境の館

舞台がリスボンで、大好きな青土社ブルーの装丁、裏を返すと、アズレージョの写真。私はもうそれだけで買う。Pascal Quignardはそう云えば、初めてだった。
辺境の館辺境の館
(1999/05)
パスカル キニャール

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ポルトガルのバロック建築を代表するフロンテイラ邸のタイル画から、キニャールが着想を得て書いた物語だそうで、元は、フロンテイラ邸の写真集として出版されたらしい。その後フランスでも小説だけの文庫版が出版され、本書はそちらの翻訳。まずは3-4ページのアズレージョの写真が並ぶ。アズレージョの美しさに見とれながら、これが舞台の辺境の館のフロンテイラ邸なのね、と想像はできたものの、帯にある”西洋版「阿部定物語」”との関連はどうみても煽りだな。

舞台はスペインからの独立を果たした直後の17世紀のポルトガル。登場するのはリスボンの王侯貴族達。フランス人ムッシュー・ド・ジョームはアルコバーサ家の美しい令嬢ルイーザに恋するが、彼女はオレイラス家の子息に嫁いでしまう。それでもあきらめきれない(というより、性欲を抑えられない)ムッシュー・ド・ジョームは、事故に見せ掛け、計略的にオレイラスを殺害し、結局、ルイーザを自分のものにする。そしてルイーザも夫からはついぞ得られなかった満足感を覚え、二人は館でこっそり暮らすのだが、ある日その計略をしったルイーザが、復習のためムッシュー・ド・ジョームの刺青の入った男性器を切り落とし復讐を果たす。冒頭で、幼いルイーザが、幼友達のアルフォンソが牡牛に睾丸をつぶされる場面に出くわすエピソードがあり、なんだこれ?と思うのだけれど、ここへの伏線だったのだと後で気付く。復讐を果たしたルイーザは、直後に自ら命を絶つ。

「性器は魂の顔」だとか、絶世の美女に野糞させたり、ポケットから焼き魚を取り出して食べたり、卑猥で下品で奇妙なんだけれど、不思議に格調高い(しかしすべてが濃い!)。まあ、これだけだとバロックと云われても、変な話しになってしまうが、キニャールが上手いのは、最後のまとめ方。完成したフロンテイラ邸の庭園のタイル画を、尋ねてきたコシモ大公(コシモ・デ・メディチ)にポルトガル王が案内しながら語る。
「だから、この庭にはいたるところに自殺する男や転ぶ踊り手がいるのです。こうしてフロンテイラ侯爵はオエイラス夫人の復讐に復讐したのです。だから、アズレージョに描かれた動物達は人間の顔をしているのです。だから、この壁の角に描かれたフレスコ画の隅には裾をからげて、物陰で排便している人の姿があるのです」

読了後、改めて出だしに戻り、アズレージョの写真を眺める。さらっと眺めて終わっていた最初の印象が嘘のよう。奔放で奇怪な絵は、動物の姿を借りた人間のような、人間のふりをした動物のような生き物たちが、人間のように服を着て、音楽を学んで、まるで鳥獣戯画のよう・・・ 陰部に刺青をした女性は、あ~これがあれかと気付く。本の記述だけだとどうにも想像しがたいが、アズレージョを見せられると、奇怪というより、ギリシャ神話の登場人物のよう。どうも邸宅には、さらに自殺する男や、物陰で排便する女性の絵などもあるらしい。実際のフロンテイラ邸の歴史は調べていないけれど、ポルトガル版、鳥獣戯画からここまでの庭園秘話を作り上げたキニャールは上手い。現代作家のくせに、こんなにも濃い作品を書く人にちょっと興味が沸いてきた。そして次回リスボン訪問の際は、忘れずにフロンテイラ邸訪ねなきゃ。
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