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十蘭レトリカ

しつこいが、また十蘭(5冊文庫本を買っちまったので・・・)
十蘭レトリカ (河出文庫)十蘭レトリカ (河出文庫)
(2012/01/07)
久生 十蘭

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「胃下垂症と鯨」
「モンテカルロの下着」
「ブゥレ=シャノアヌ事件」
「フランス感れたり」
「心理の谷」
「三界万霊塔」
「花賊魚」
「亜墨利加討」


舶来物とでも云うのか、パリいや巴里ものが若干多いが、変則海洋もの、十蘭風恋愛もの等々、相変わらずの多彩で多才な「十面体の黒ダイヤ」ぶりだった。こうも続くと、文才のない私は、もうどう形容してよいのかわからなくなってくる。人情味も可笑しさも哀しも描きながら、じっとりとした重さはなく、上手いくせにエンタテイメント性も残している。十蘭の描く巴里を読むと、この時代相当なハイカラ者であっただろうと想像できる。横文字も多いのに嫌味がないのはさすがだ。

何だかよくわからなかったが、でもどうにも惹かれるショートショートの「胃下垂症と鯨」。出だしでこのショートショートを持ってこられると、この時点でもう鷲掴みされる。戦中の軽井沢を舞台に、十蘭自身も登場する「フランス感れたり」。可笑しくて哀しいフランス人のベロォーさんの悪戦苦闘の物語。が、顎十郎の影響なのか、最初に読んだ翻訳ものの「ジゴマ」のリズム感の凄さの印象が強いのか、私はどうも十蘭の江戸ものに弱い、ということで、最後を飾った「亜墨利加討」が一番印象に残った。出だしがこれではやられるに決まっている。
いつまでつづく五月雨か、慶応四年の皐月は、月初から毎日こやみもなく降りこめ、本所や深川は水が出て、新割の大溝からあふれだした泥鰌っ子が、ぬかるみの水溜りのなかで黄色い腹をよじっている。
そうだ、泥鰌の腹は確かに黄色い・・・・と、どうでもいいことに感心しながら、この書き出しはああ”~~~なのである。

終わりの解説は再び、詩人の阿部日奈子。「十蘭錬金術」でも感心したが、私がどう形容したらよいのかもやもやしていると、この方最後に見事にキメてくれる。

事物は移ろい消えてゆく。砂漠の英雄も、戦前の軽井沢も、草原の娘も、真珠貝成金も、馬鹿囃子も、どこかへ行ってしまった。しかし言葉さえあれば、それらを呼び戻すことができる。十蘭を読んで思うのはそこだ。繁茂してほとばしる言葉、細部を穿つ描写、愉しげなレトリック、しゃれたルビ・・・・ ひと言でいえば巧いということになるのだが、その巧さのおかげで、私たちは本を開けばいつだって、かつての豊饒で猥雑な世界と固く抱き合えるのである。

そう、だから本を読んじゃうのよ、と思うわけである。
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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