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南国に日は落ちて

「蜘蛛女のキス」で有名なManuel Puigの遺作。

南国に日は落ちて南国に日は落ちて
(1996/10)
マヌエル・プイグ

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リオで暮す妹ルシのもとへブエノスアイレスからやってきた姉ニディア。片やロマンチスト、片やリアリストの二人は隣りの女性やハンサムなガードマンをめぐって噂話に花を咲かせる。だが、妹は息子の転勤にともないスイスへ移住、南国を偲びつつその地で病死する。周囲のはからいで妹の死を知らされない姉は、リオで待ち続け、妹に宛てて手紙を送り続ける。ところが、彼女は信頼していたガードマンに裏切られ、傷心のままブエノスアイレスに戻るのだが…。

登場人物はほとんどニディアとルシの二人の老姉妹。そして前半はほとんどこの二人の会話。このふたりだけの会話というのは、「蜘蛛女のキス」を思わず思い出す。舞台も二人が暮らす、リオのマンションという閉鎖的な設定で、二人芝居の舞台のようでもある。妹のルシが息子が暮らすスイスに移住してしまってからは、二人の手紙のやりとりに加え、隣の女性シルビアや、ルシの息子の書簡も加わるが、もっぱら手紙の文面ばかりが続くというコラージュのようなプイグお得意の構成。

最初はこの老姉妹の会話の意味がわからない。いや、会話自体はよくある近所の噂話、どちらかと言えば覗き趣味的な他愛のない、隣に住むシルビアの不器用なアバンチュール物語でしかない。これに何か意味があるのかないのか?あまりないんだろうなあ、と思っていると、やはりあまりない(笑)。閉ざされた空間での対照的な二人の会話では見えなかった関係が、後半の書簡の中では、語る側が語られる側に変化していくと、そこに突如として客観的視点が加わるのがよくわかる。伴侶や子供の死を潜り抜けて、そこそこ裕福な暮らしをしている老齢に達した二人は、確かに浮世離れしており、現実的な普通の(?!)社会人生活をしている息子が、スイスで息を引き取った妹ルシの死を隠しながら、再三ブエノスアイレスに帰れと促す手紙や、お気に入りのハンサムガードマンに裏切られたりするエピソードは、浮世ではないラテンアメリカの現実や、下層階級の暮らしが浮かび上がってくる。このあたりで私なんかは、カワイイ御婆ちゃんが哀しく見えてきてしまったのだが、否、ラテンアメリカに悲壮感や悲観的結末は似合わない。

妹ルシがスイスへ移住したあと、一人残ったニディアは、俄然この歳にて人生をポジティブに生き始める。ハンサムなガードマン、ロナルドに付き添わせて、外に散歩に出かけるし、彼の奥さんを呼び寄せようと奔走するし、そのハンサム君に裏切られ、意気消沈してブエノスアイレスに引っ込むのかと思いきや、相変わらずリオに踏みとどまっている。そして最後の毛布のエピソード。してやったりの婆ちゃんになってしまったニディアだ。

『蜘蛛女のキス』 や 『天使の恥部』、『このページを読む者に永遠の呪いあれ』 のような圧巻の凄さはこの本にはないので、プイグ最初の一冊には薦めないが、3つ目4つ目になら、ふふ~~ん、と思えるプイグの一冊。
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