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ボリバル侯爵

少し前から国書刊行会のTwitterをフォローしている。発売された当時、盛んに宣伝してくれたので、読もう読もうと思いながら、いままで(「夜毎に石の橋の下で」も、「最後の審判の巨匠」も)、なんだが今一つのノリで終わった。三度目の正直はさていかに?
ボリバル侯爵ボリバル侯爵
(2013/11/22)
レオ・ペルッツ

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三度目の正直はあながちウソでもなかった。まあ、帯の言葉も版元の紹介もちょっと違う気がするし、これを幻想小説と呼んでしまうのもちょっと違和感があるが、細かいことはさておき、なかなか面白かった。

時はナポレオン帝政時代末期の1800年初頭。スペインを征服しようと、ナポレオンはスペイン王を退位に追い込み、自分の身内を王位につけるが、スペイン内地ではイギリスの加担を受けたゲリラが対抗している。この本は、フランス軍として参加していたヨッホベルク少尉の回想録として書かれたもので、壊滅的敗退を期したスペイン、ラ・ビスバルでの戦いの詳細な記録という設定になっている。フランス軍といいながら、その中身は同盟を組んでいたドイツの兵士たちで構成されるナッサウ連隊。そしてタイトルになっているボリバル侯爵は、スペインの民衆の尊敬を一身に集める侯爵で、ゲリラと結託して、フランス軍を壊滅させる作戦を立てる。

この本の面白さは、タイトルにもなっているボリバル侯爵が早々にして死してしまうのだが、その存在しないはずの侯爵の意思が、最後までナポレオン軍のドイツ兵士や、ゲリラ軍の運命を決めてしまうというところ。ナポレオン軍への攻撃は、ボリバル侯爵の3つの合図で進む作戦ながら、侯爵が死してなお、不在の意思により見事決行されてしまう。それは何故か?という謎解きの面白さは、間違っても幻想的な運命論でも、神のなせる技でもなく、なんのことはない、ドイツ兵で構成されるナッサウ連隊内部の、”女” をめぐる痴話争いだったりする。この連隊内のドイツ将校たちのがさつぶりは、幻想小説をすっかり笑い話にしてしう位面白い。連隊の大佐の亡き妻は、彼の部下たち皆と不倫し、今度は、妻なきあと新たに大佐の愛人となる女性を巡って、部下総出で我先に寝とろうと必死になっている。そして下されるはずのない3つの合図が、運命のいたずらか、身から出た錆か、自業自得か、という偶然で決行されてしまうのである。

と笑いながらも、敬虔な信者であったボリバル侯爵に相対する、不死身のさまよえるユダヤ人サリニャックのエピソードや、最後の最後にヨッホベルク少尉が、ゲリラ軍から、ボリバル侯爵と見なされるくだりは、寒気が走るような不気味さ。登場する者が全てが、殺しても殺してもまとわりつく死んだはずのボリバル侯爵の意思に操られ、そして壊滅していくのだと気づく後半は、ページをめくる手が止まらなくなる面白さ。

三度目の正直にほっとしながら、他に彼の作品はないのかとつらつらとネットを彷徨っていたら、あった。『書物の王国4 月』。確かウチの未読棚にいたはず。ふふふ、楽しみだ。
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コメント

[C459]

同じ著者の、死者の言葉に生者が翻弄されるという展開も同様な「第三の魔弾」の後に続けて読みましたが、こちらの方が話が一本筋で読みやすかったです。三つの合図がそれを阻むべきナッサウ連隊自体によって行われてしまう様が、見えている地雷をわざわざ踏みに行くとでも言うか、人間心理のあやを巧みに描いていてとても面白く、一気に読みきれた作品です。

[C460]

続々と刊行されているレオ・ペルッツですが、三冊目にして楽しめたのがこの本です。「第三の魔弾」は未読ですが、Twitterでは今さかんに『聖ペテロの雪』が取り沙汰されていて、すっかり煽られています。今度こそ今度こそと思いながら、煽られるまま読んでしまいそうです。
  • 2015-11-08 20:18
  • Green
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