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目眩まし

「鄙の宿」の次はこちら。ゼーバルトの処女作。
目眩まし (ゼーバルト・コレクション)目眩まし (ゼーバルト・コレクション)
(2005/11/25)
W・G・ゼーバルト

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以下の4篇
「ベール あるいは愛の面妖なことども」 が、アンリ・ベールこと、フランスの文豪スタンダールの旅
「異国へ」 はゼーバルト自身の旅
「ドクター・Kのリーヴァ湯治旅」 はドクターK.こと、フランツ・カフカの旅
「帰郷(イル・リトリノ・イン・パトリア)」 は、再びゼーバルト自身の故郷への帰郷の旅

それぞれは一応には独立しているのだが、読み進めているうちに、境界線が曖昧になってきて、最後にはすべてが混濁している。それはどうも私の頭が混乱しているわけではなさそうだ。ゼーバルトが生まれたのは、ドイツのアルゴイ地方ベルダッハだが、そこはボーデン湖の東側、ドイツでもあり、スイスでもありオーストリアでもあり、要はチロル地方の小さな村で、国がどこであれ、そこはチロルなのだという。旅は、カフカの旅をなぞりながら、ヴェネチアへも飛ぶが、このチロル地方を核とした軌跡に見える。小説なのか随筆なのかエッセイなのか、フィクションなのか・・・ という独特の散文が特徴のゼーバルトだが、処女作にして既にその作風が確立していたようで、こちらも単なる旅日記ではなく、写真やイラストなどを組み合わせた独特の散文作品になっている。カフカの旅やスタンダールの旅は一応、伝記的事実に基づいているというが、彼自身の旅はどうなのだろう?そこが一番曖昧でもあり、掴みどころがなく、そしてカフカを追っているはずのゼーバルトが、決して自らアクティブにカフカを追っているのではなく、何かから逃れるようにイタリアに向かっている。

4篇の縦軸となっているのは、カフカの短編「狩人グラフス」。グラフスはカモシカを追っていて転落死した。しかし三途の川を渡りそこね、あの世にもこの世にも居つくことができずに永遠の漂泊を続けている。その縦軸に挟まれる横軸が、ゼーバルトのイタリアへの旅であり、カフカ自身の旅であり、スタンダールの恋愛遍歴の旅であり、そして最終章の締めくくりは、やはり彼自身が一度は捨てた故郷への旅なんだろう。30年ぶりに帰郷した村ででくわした唯一の昔の知り合いのルーカスに、ゼーバルトが帰郷した理由を語る。

「時とともにいろいろなことが頭のなかで辻褄が合ってきたが、かといってそれで物事がはっきりしたわけではない。むしろ謎めいていくばかりだ。」

そんな辻褄の合わない理由を、うんうん、よくわかると頷いて答えるルーカス。過去の光景を集めれば集めるほど、それらは荒唐無稽に思えてくるというその過去の記憶の悪阻ましさは、正直私には理解できない。理解できないが、ルーカスがうんうん、わかると頷いたそのシーンが、この作品の中では唯一といっていいほど、ほっとした瞬間でもある。それくらい、ゼーバルトはいつも辛そうで、哀しそうなんだな。。。
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