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大いなる酒宴

「類推の山」ですっかり打ちのめされてしまったRené Daumal。「類推の山」は未完ということになっているので、この「大いなる酒宴」が完成品としての唯一の邦訳。
大いなる酒宴 (シュルレアリスムの本棚)大いなる酒宴 (シュルレアリスムの本棚)
(2013/06)
ルネ ドーマル

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「シュルレアリスム」の本棚シリーズの栄えある第一回配本が、この「大いなる酒宴」だったのだが、どうも値下がりしてくれなかったので、まずは「サン=ジェルマン大通り一二五番地で」で、足を踏み入れたこのシリーズ。ようやくRené Daumalが入手できた。

シュルレアリスムと冠される文学も含めた様々なアート、それは単に「超現実主義」という無意識下の夢物語や、不条理な世界や、幻想世界というわけはない(のよね)。ドーマルが「シュルレアリスムの本棚」の一角を占めるのは別にいいけれど、シュルレアリスムとは何ぞや?と考えてしまうような本でもあった。「類推の山」もそうだけれど、この方の”シュルレアリスム”は、なんともユーモアがたっぷり。

巻末どころか、この本の1/3ものページを占める長い解説は、解説されるのがあまり好きではない私にも面白かった。ドーマルの人生、彼が仲間と組織した「大いなる賭」なるグループ、そして彼の思想を懇切丁寧に説いてくれる。それは上から目線の押しつけ解説ではなく、あ~この人、ドーマルが好きなのね・・・という思慕に溢れていて、客観性の程はわからないけれど、アンドレ・ブルトンがどうも好きになれない私には、ブルトンのシュルレアリスム主流派との関係なぞは、ウフフと笑ってしまうような面白さ。ブルトンからのお誘いには一切なびかず、かといって、強硬に対決するわけでもなく、なんとも小気味よく交わしている姿に拍手したくなる。
「ご注意なされよ、アンドレ・ブルトン。のちのち、文学史の教科書に掲載されることのなきよう」(ルネ・ドーマル「アンドレ・ブルトンへの公開書簡」)

彼は、シュルレアリスムから勝手に想像するような、気難しい変わり者でもなんでもなく、とてもいいヤツだったに違いない。そして、これまたシュルレアリスムからは想像しにくいような、人生を楽しく真面目に生きている人だった。常に高みをめざすドーマルであったが、慈悲深くそして、ややぎこちない努力家だった。

内容はと云うと、決して難解ではなく、どちらかというとユーモラスで風刺に満ちた三部構成。
第一部は、酒場での乱痴気騒ぎ。登場するへんてこな人たちは、どうも「大いなる賭」の面々をモデルにしたらしいが、哲学講義をまくし立てる者、歌を歌う者、演説をぶつ者、皆渇きに任せて酒を飲む。飲んでも飲んでもその渇きは癒されない。その酒場の上階に舞台を移した第二部は、「人工天国」。そこにいるのは、なんちゃって科学者になんちゃって芸術家に、なんちゃって哲学者、なんちゃって批評家、等々。ここでは禁酒が貫かれ、またしても渇きは癒されない。そして、第三部。「真の言語」への希望を除かせながら、語り手が到達した境地。ここが一番短いながら、一番難解といえば難解。一部二部で描かれる似非ものではない、現実の世界がそこにあり、残り物をかき集めたまずそうな酒が、渇きをいくらか癒し、生き抜くために、火を熾し着ているものをすべて燃やし、裸になり、そこには”当たり前の日の光”がある。

何なのよ、と問われると何なんだろう?と答えてしまうしかないが、1944年、36歳という若さでこの世を去ったドーマルは、独学でサンスクリットを学び、仏教の三蔵をフランス語に翻訳した。また、日本の禅学者、鈴木大拙の本も訳している。何事も身を持って知るのでなければ、何ひとつ知りたいとは思わない、と言い切った彼は、最後の最後まで(「類推の山」を執筆しながら)、次は何を経験しようとしていたのだろうか?
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