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死都ブリュージュ・霧の紡車

「責苦の庭」に続く、フランス世紀末文学叢書。なかなか気に入っている。ちなみにこのシリーズは、国書刊行会によると;
フランス世紀末文学叢書
爛熟と頽廃の19世紀末――物質的な繁栄をみながら精神的に荒廃したこの時代に、俗世界へ背を向け、絶対の彼方にありうべからざる人工楽園を創出せんとした美の使徒たち。一時は忘却の底へ沈んだかにみえながら、ここ数年、にわかに脚光を浴びつづけている近代文学の源泉、フランス世紀末文学の最も香り高き作品を15巻に編んだ本邦初の一大アンソロジー。

ということで、爛熟と頽廃の19世紀末、つまり100年以上前の1800年代後半の、”文学が文学を問い始めた” 時代の作品集で、現代ではもう復元もあり得ないような爛熟さと頽廃が何ともいい。帯の「沈黙に咲く黄昏の夢」も全く大袈裟に聞こえない。
死都ブリュージュ・霧の紡車 (1984年) (フランス世紀末文学叢書〈8〉)死都ブリュージュ・霧の紡車 (1984年) (フランス世紀末文学叢書〈8〉)
(1984/07)
ジョルジュ・ロデンバック

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死都ブリュージュ

「死都ブリュージュ」は中篇、「霧の紡車」は短篇集。
亡き妻の面影をいだきつつ男が彷徨う、憂愁に沈む運河の町ブリュージュ……。ひとつの都市を小説の主人公にすえた名作『死都ブリュージュ』に遺作の短篇を併録したベルギーの文人ロデンバックの小説集。

「死都ブリュージュ」は岩波文庫にもなっており、こっちの方が有名か?なんでもブリュージュを死に追いやってしまったこの小説はすこぶるブリュージュ市民には評判がよろしくない。愛する妻を亡くした中年男が、ブリュージュにやってくるが、陰鬱な町並みはすなわち主人公の心持ちそのもの。死んだように町を彷徨う男性は、ある日妻そっくりの女性を見かけ、懇願し、隠れ家を用意しそこに住まわせる。踊り子という世間体はよろしくない女性との交際は、結局本人がどれほど隠そうと、町中に知れ渡る。顔は瓜二つだが結局中身はというと、放蕩を好み薄情な性格で、次第に男を邪険に扱うようになる。最後は、男が女を手にかけ、女の喉を絞めて殺され、そしてブリュージュという町も死ぬのである。

と、何の捻りもないベタベタなストーリーで、男には同情も沸かないが、これは筋書きの面白さを味わう本ではなく、ブリュージュという町を読む本なのだな。男の心情は描かれない、それを代弁するのは、ブリュージュの町そのものである。ブリュージュの町並みのモノクロ写真も随所に挿入され、これを読むとブリュージュに行きたくなること請け合い。と、実は私はブリュージュに一度行っている。雪こそなかったがまっ冬の最中のブリュージュ。雰囲気は伝わるが、この本では確かにブリュージュはあまりにも美化されているといえば、されている。そもそもジョルジュ・ローデンバックは、フランス語で作品を書いたが、ベルギー象徴派の詩人。至極納得。

美しいといえば美しい 「死都ブリュージュ」 だが、これだけだったらジョルジュ・ロデンバックの良さはわからなかっただろう。短篇集 「霧の紡車」 の方が私は断然面白かった。短篇はどれもとても短い。それでも古典らしく(?)、奇をてらうわけではないしっかりとした短篇集で、ほぼ全篇、下世話に云えば恋愛もの。古式ゆかしく表現すれば、愛と狂気と死。オチはどれもちょっと教訓臭いものがあるが、三人称で描かれるこれら短篇集は、その教訓臭さ故か、何だが天の神が、下界で繰り広げられるそんな人間の愚かさを語るような距離感がある。 「死都ブリュージュ」 にしても短篇にしても、極めてシンプルなストーリーで読み易く、サクサクと読め、とても19世紀末の作品とは思えない近寄り易さだった。

21世紀に突入した今読んでみて、今に通じる何かがあるとか、そういう本ではないんだが、爛熟と頽廃の19世紀末の世界でしばし現実逃避をするには、このシリーズは何ともいいのである。
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