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魔都

表紙が気に入ったのでアマゾンからは、この版で登場してもらったが、私が今回読んだのは、青空文庫からのいただきもので、めずらしくiPhoneでのe-book読書。読み始めたのがいつだか全く覚えていない。手持ちの本を開けない立ち状態での電車の中で、チマチマと読んでいたが、やっと読了。最後は一気。
魔都―久生十蘭コレクション (朝日文芸文庫)魔都―久生十蘭コレクション (朝日文芸文庫)
(1995/02)
久生 十蘭

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甲戌の歳も押詰って、今日は一年のドンじりという極月の卅一日・・・・
で始まるこの物語。甲戌の大晦日は1934年の事。1934年すなわち昭和9年である。元は「新青年」に1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月にわたり掲載された連載小説。「魔都」は帝都と呼ばれた東京、しかもど真ん中、中枢部。当時の地名は今とは若干異なるものの、銀座~丸の内~赤坂~日比谷から、帝国ホテル~銀座三越~服部時計店(現・和光ビル)~日比谷公園まで、昭和9年の大晦日からよく10年の元旦の真夜中までの約30時間ほどの東京が舞台。

自分の国ながらさすがに生まれる前の話は、悲しいことに学校で勉強した日本史の記憶の方が勝ってしまう。そこは西暦の世界なので、1934年(昭和9年)は、満州事変の3年後、国際連盟脱退の翌年、満州では溥儀が皇帝となり、帝人事件が起き、東郷平八郎元帥が亡くなり、ドイツではアドルフ・ヒトラーが総統となり、私事ながら母が生まれた年が昭和9年。ちなみに2.26事件はこの2年後の1936年だから、十蘭が「魔都」を連載したのはこの後。妙な感じだが、西暦ではなく昭和9年と云われると、そこには生の日本が現われ始め、帝都「東京」が浮かび上がる気がする。

銀座の「巴里」というバーで、大晦日の乱痴気騒ぎが行われている。そこに集うのは、遊蕩児に好事家、米国帰りのダンサー、国策会社の重役、となにやら曰くありげな怪しげで猥雑な人々。そして滞在中の安南国の皇帝宗龍王が失踪し、同じ時その愛人らしい松谷鶴子が赤坂の高級アパートから墜落しした。ひょんなことから、事件に関わるタブロイド紙の記者、古市加十と、警視庁切っての捜査課長・真名古明が真相究明に乗り出すが、数多の登場人物が入り乱れ、国際問題になるのを恐れ事件の隠蔽と隠滅を図ろうとする警察、事件は錯綜する。安南国の秘宝ダイヤを巡る攻防かと思われた怪事件は、帝都の地下迷宮にまで及び、そして、最後は帝都中枢部を封鎖しての大やくざ戦争。。。。。

私(十蘭)が読者に向かって語り聞かせる口語調は、思わず 『ジゴマ』 を思い出したような講談のような語りで、十蘭はさしずめ弁士。大衆作家でもある十蘭は、くそ真面目な真名古明が思わず恋してしまう美人を登場させたり、タブロイド紙の記者、古市加十に、王様の身代わりという役どころをさせたり、昔も今も警察内部は官僚の吹き溜まりだしと、いつもながら緩急のリズムが絶妙。最近は十蘭は短篇ばかりだったが、私は長篇の方が好きだなあ。

殺人事件を巡る謎解きという体裁はとっているものの、これはミステリー本じゃあない。日本史の教科書の昭和9年は、まさに不穏な空気が充満し、その後戦争へ突入していく暗い時代でしかなかったが、「魔都」 のそれは、もっと猥雑で、文化的には明治以降の戦前最後の熟覧期に見える。実際はそうだったのだろう。経済学者の云うバブルの終焉時に、庶民はまだ浮かれているようなギャップだ。国際連盟を脱退したばかりの日本に、フランス管理下の安南国、すなわちフランス領インドシナの王様を絡めるあたりに、十蘭のなにかしらの意図があったのかどうかはわからないし、2.26事件が勃発した後に、十蘭の帝都を描く意図もわからない。事件のからくりは、云うなれば政治的陰謀ではある。そんな暗喩もフランス仕込のペダンティックも含め、これは十蘭作品の筆頭にあげてもいい。
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