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1913: 20世紀の夏の季節

また河出さんにのせられて、真新しい新刊書に手を出してしまった。しかも¥4,536を辛うじて10%オフ位の古本にしたが、私にとっては、年に一度あるかないかの大判振る舞い。でも、1913年、第一次世界大戦の始まる前年、時代的には、最もと言ってよい程、私の読書履歴に登場する時代。既に20世紀に突入している1913年。しかし、古き良き19世紀が実質的な終焉を迎えたのが、この1913年という書評を読まされ、もー我慢できずにポチった。
1913: 20世紀の夏の季節1913: 20世紀の夏の季節
(2014/12/24)
フローリアン イリエス

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第一次大戦の前年のヨーロッパ―世界史の転換に人々は何をしていたのか。ひと月ごとに著名人たちの動静の膨大な断片をつなぎあわせながら、1913という一年を微細にしてダイナミックに描き出す、かつてなかった手法による空前のドキュメント。ドイツはじめ世界の読書人の絶大な支持を受けたベストセラー。

ノンフィクションは正直苦手だ。我慢できずにポチったわりには、ノンフィクションの歴史書を予想して不安だったが、その認識は早々に覆された。敢えて大胆に云ってしまえば、これはノンフィクションでも歴史書でもない。

一ヶ月で一章、つまり1月から12月までの12章で構成され、中身はドイツ/オーストリアを中心としたヨーロッパに当時生きていた膨大な人たち、ルイ・アームストロング、カフカ、レーニン、スターリン、フロイト、ルー・ザロメ、リルケ、シェーンベルク、トーマス・マン、ユンガー、キルヒナー、シュペングラー、ピカソ、ブラック、ユング、ヒットラー、プルースト、デュシャン、シュニッツラー、トロツキー、マーラー、アインシュタイン、エゴン・シーレ、ヴァージニア・ウルフ、ムージル、カミーユ・クローデル、チャップリン、ブレヒト、フランツ・ヨーゼフ、フランツ・フェルディナント・・・ 帯裏の文字を拾いつつ、知らない方ははしょらせていただきながら、ざっとこんなオールスターキャストを列挙してみた。

作者のフローリアン イリエスは、美術史や近代史を専攻し、ドイツの新聞等で文芸欄担当などをしていた方だそうで、政治色は薄く、芸術・文学ネタが多い。だが芸術家も文学者もその作品についての解説じみた説明はほとんどなく、彼らのどうしようもないダメ人生ばかりだったりする。長いものは数ページあるものの、短いエピソードはほんの一行。膨大な断章の集まりながら、カフカやシーレ、トーマス・マン、デュシャン、フロイト、などはコンスタントに登場し、合間合間に政治的な人たち、スターリンやら皇帝フランツ・ヨーゼフや皇太子フランツ・フェルディナントが顔を覗かせる。断章の集まりであるのに、エピソードの羅列という感じは全くなく、1月から始まる1913年が12月のクライマックスに向けて、不気味な加速を続けていくような錯覚に陥る。映画的といえば、映画的。細かなカメラワークのカットバックと長めの引きを見事に使い分け、ランダムな断章のようでいて、どこで誰を登場させるか、実はもの凄く緻密に計算して、構成されているように見える。どうしようもなく精神不安定なカフカ、マーラー亡き後その妻アルマとシーレの関係、フロイトとユングの冷たい戦争、いつまでたっても芸術に手をださないデュシャン、ピカソとマティスのちょっといい関係、陽の目を見る前のスターリン、絵描きになれない挫折時代のヒットラー、ピカソやブラックによるキュビズムの萌芽・・・・ これだけの登場人物を配して、断章を際限なく積み上げ、バラバラの配列と一見出来事同士の関連もないような渾然としたモザイクの中から、確実にそれを包括して1つの時代が浮かび上がる。

翌年1914年には、皇太子フランツ・フェルディナントはサラエボで暗殺され、第一次大戦が勃発し、オーストリア・ハンガリー帝国も、ロシアのロマノフ王朝も崩壊する。ちょうど100年先を生きている私たちは、その暗い未来を予備知識として刷り込まれているが、不思議にも1913年当時に、この大戦とその後の時代の大転換は案外予想されてはいない。作者が時折配置するヒットラーやスターリンやレーニンやフランツ・ヨーゼフ皇帝の断章がそれを暗示していくのみである。そういう意味で、本書はどこかドラマチックなフィクションのように見えるわけだ。文章の多くを文化面に割きながら、断章と断章の間の行間を読者に読ませる。

翻訳者のあとがきに、ツヴァイクの「昨日の世界」についても記述がある。第一次大戦を境に大きく価値観を変換するヨーロッパの、その転換前の世界を描いた「昨日の世界」。まだ手を出していなかった。それをちょっと読んでみたくなった。
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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