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赤い橋の殺人

文庫だけれど、とっても読みやすい光文社古典新訳文庫。小さい文字がてんでダメになった世代にはありがたい。でもこのバルバラって誰?と古本カフェのお兄さんに聞いたら、僕も知らないと云われた。誰なんだ?

赤い橋の殺人シャルル・バルバラ  (光文社古典新訳文庫)

さて、シャルル・バルバラとは;
フランスで150年もの間、忘却の闇に埋もれていた作家が、一人のう日本人研究者によって「発掘」されて、いまや本国でも古典の地位を獲得しつつある。この作家こそが、バルバラである。ボードレールの親友であり、巧みなストーリーテリングと文体の音楽性、そして哲学的思考に秀でた稀有の小説家である。本書は彼の代表作。

彼を発掘したのが、この作品の訳者である亀谷乃里氏。あとがきに気の遠くなるような経緯が書かれている。あとがきの前には懇切丁寧な解説まであり、能書きが好きでない私も、今回はその熱意に引かれるように解説もあとがきも読ませていただいた。

時代は19世紀半のパリ。都市化が急速に進み、実証科学、自然科学の進歩が発展する傍ら、神に対して懐疑主義が芽生え始めた時代。一人の強欲な株式仲買人がセーヌ川から死体となって発見される。一方、貧しい暮らしから急に金回りがよくなったクレマンなる人物、彼の友人であるマックスが、云わば探偵の役割となり、死体とクレマンの過去を解き明かす「探偵小説」の走りでもあるこの作品。と同時に、悪徳と神、殺人と良心の鬩ぎ合いという「心理小説」という側面も持つ。更なる側面は「暗黒小説」としての面白さ。最後まで読まずとも、このクレマンが株式仲買人を殺害したであろうことは察しがつくのだが、それを隠しながら、新興成金として裕福な暮らしを始めるクレマンと妻の私生活は徐々に崩壊し始める。その理由は彼らの子供。赤ん坊らしからぬ醒めた表情とその風貌の謎は後半明らかになるが、(ネタバレですが)その子供は自ら殺した株式仲買人に生き写しだった、という恐怖の超自然現象。

ストーリー展開も謎解きも奇をてらったものでは全くないが、こういったテーマの盛り込みが上手く、古典小説にある丁寧で重厚なテーマは現代に通じる普遍性があるから面白いというだけでなく、最後まで飽きさせず読者をリードしていくエンタテイメント的な上手さもある。急進的無神論者に ”神などいない” と叫ばせ、自由意志で生きることを望む彼を、新大陸アメリカに向かわせるのも象徴的だし、結局旧大陸に懐古の念を抱きながら帰還させる途中、丁度その新旧大陸の中間にある無人の孤島で生涯を終わらせる。これもまたとても象徴的。すべての意思は神のなせる技という旧来のキリスト教絶対主義を批判する人物を中心に据え、ではそんな自由主義者の人としての救済はどこに求めたらいいのか?
訳者曰く、
ここには一般的モラルの解決もない。しかしバルバラの一貫した拒否は現代に生きる我々に非常に親近感を抱かせる。むしろ共感というべきだろう。この拒否の姿勢は、前にも後ろにも何の支えもない自由意志によって自らを引き受けざるをえない。後に続くわれわれ現代の人間の登場を予告している。解決は読者に託されている。
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