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夜の果てへの旅

相当長い間ほったらかしていた本。通勤バックに収納する都合上、文庫以外はダメそうだったという後ろ向きの理由から、ようやく陽の目を見ることができた。文庫とは云え、上下巻で800ページ強という、セリーヌの処女作にして代表作。変人だということくらいしかセリーヌのことは知らない。

上巻は;
全世界の欺瞞を呪詛し、その糾弾に生涯を賭け、ついに絶望的な闘いに傷つき倒れた“呪われた作家”セリーヌの自伝的小説。上巻は、第一次世界大戦に志願入隊し、武勲をたてるも、重傷を負い、強い反戦思想をうえつけられ、各地を遍歴してゆく様を描く。一部改訳の決定版。
下巻は;
遍歴を重ねた主人公バルダミュは、パリの場末に住み着き医者となるが―人生嫌悪の果てしない旅を続ける主人公の痛ましい人間性を、陰惨なまでのレアリスムと破格な文体で描いて「かつて人間の口から放たれた最も激烈な、最も忍び難い叫び」と評される現代文学の傑作巨篇。
まるで脅しだね・・・

4122043042夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫)
セリーヌ Louis‐Ferdinand C´eline
中央公論新社 2003-12

by G-Tools

4122043050夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫)
セリーヌ Louis‐Ferdinand C´eline
中央公論新社 2003-12

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作者セリーヌの自伝的小説と云われているらしい。主人公フェルディナン・バルダミュの遍歴は、まず第一次大戦に志願し、戦争の現実を知り、幻滅し、兵役後、アフリカの密林からデトロイトの車工場、そして再びパリへ戻り場末の貧困街で医者となる。呪詛、絶望、嫌悪、陰惨・・・と並んだ言葉ほどには、作品は激烈ではない。が全篇これ、確かに否定ばかり。小説に夢や希望や、愛、人間賛歌は必ずしもなくてもいいが、いいことが全くない小説といのも稀だ。それでも不思議なのは、エネルギーが感じられた点。負のエネルギーであってもエネルギーなんだな。

戦争に志願したのは浮ついた愛国心だが、死をまじかに感じ、極限状況の人間の醜さを見せつけられる。次に向かったアフリカコンゴの植民地では、一発当てようと貿易会社に勤めるが、劣悪環境の末、奴隷船に紛れて、新天地アメリカに到着。最先端の自動車産業の工場はしかし、資本主義の負の側面ばかり彼に見せる。それぞれの地で恋愛もどきもあり、友人らしき人間も現れるが、彼は誰とも結局心を通わせたりはしない。フェルディナンは確かに嫌な奴だ。自分勝手で、誰も何も信じず、すべてを毒々しくこき下ろす。でも、すべてに絶望して生きる気力も望みもない人間なのかというと、徹頭徹尾エネルギーに満ちている気がする。彼は決して自ら死を選ぶ人間ではない。しかも、医者として治療費を値切られ、踏み倒されても、文句を云いつつ面倒をみたりするあたりに、口で言うほど、彼には厭世観などないように見える。常に生きる意味を探しながら生きようとしているとしか思えん。でなけりゃ、罵詈雑言ばかり叫び続けてはいられない。怒るということはエネルギーがなければできないのだから。そしてむしろその罵詈雑言の出処は、過敏な精神からくるんじゃないかと思う。拝金主義に染まり切った似非モノたちは、そんな繊細な気持ちすら持っていないはず。

彼は、反資本・反ユダヤ主義の立場からフランスの現状を痛罵した時事論集などのために、第二次大戦後、戦犯に問われ、亡命先のデンマークで投獄された。特赦で帰国したが、61年、不遇と貧困のうちに歿し、その墓石には“否”の一語だけが刻まれたという。あとがきにもあったが、反戦も声高に叫び、資本主義をなじるからといって、そこに政治思想は感じられない。アナーキーですらないと思う。生身のセリーヌ=フェルディナンなのかというと、これはあくまでフィクションではあるが、少なくとも、『夜の果てへの旅』 を執筆した若き日に、世間でいうような政治的アンチ思想はあまりなかったのかも知れない (と、思ったのだが、どうなんでしょか??)

負のエネルギーをばらまき続けるこの本は読むと疲れる。でもフランスきっての”危険な作家”はこれ1冊では到底わかりそうにない。元気がある時に次の一冊を物色してみる。
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夜な夜な本読む・・・日本語は海外文学ばっかり。英語はフィクションばっかり。喰わず嫌いでどこまでいけるのか?

流行りモノとか、人気モノとかすっかりどうでもよくなり、本と散歩とあとはぼぉ~~っとすることだけが今の楽しみ(それでいいのか?)

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