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Himmler's Cook

読んだのはKindle版。 邦訳は『105歳の料理人ローズの愛と笑いと復讐』 「窓から逃げた100歳老人」を思い出してしまった人は私だけではないはず・・・ 100歳シリーズ、二匹目のドジョウか?がフランス本国でもベストセラー、いや世界のベストセラーになったらしい。PBだと装丁はこんなだったんだ。”愛と笑いと復讐” と云う言葉から想像するほど、ケタケタ笑っちゃうようなとんでも婆ちゃんのぶっとんだ半生というわけではなかった。

B00V2JSTVAHimmler's Cook (English Edition)
Franz-Olivier Giesbert
Atlantic Books 2015-06-04

by G-Tools

英語タイトル(オリジナル仏語もそうだけど)のHimmlerはヒトラー政権で彼の右腕のひとりであったハインリヒ・ヒムラーのこと。フランスはマルセイユで、レストランを営むローズの半生は、すなわち20世紀の歴史そのものであった。ローズは1907年に現在のトルコ、当時のオスマン帝国でアルメニア人の両親の元に生まれる。1915年、オスマン帝国内で少数民族であるアルメニア人の民族浄化運動が起こる。彼女が遭遇した最初の悲運の歴史がこれ。そこで一人生き残ったローズは、オスマン帝国高官のハーレムに隠れ、その後フランス行きの船でパリに逃れる。レストランで過酷な労働を経験し、優しい養夫婦の元で一時幸せに暮らしたが、夫婦がなくなると、その親戚に預けられるが、そこで再び過酷な日々を過ごす。そこで知り合った家畜の去勢師・ガブリエルと逃避行。パリに逃れて、自分のレストランを開く。が、自らの浮気を咎められ別居。子供とも離れ離れになる。ナチスがパリを占拠すると、ドイツ高官たちも彼女のレストランを訪れ、その中の一人がハインリヒ・ヒムラーだった。ヒムラーに愛され、ヒトラーに料理をふるまったこともあるローズ。が、ナチ高官である彼とともには生きてゆけない彼女は、アメリカに逃げる。さらに大躍進政策真っ只中の中国へ渡る。そして再びマルセイユに戻るローズ。

宗教対立、民族浄化政策、大量虐殺の歴史の中を生き延びた彼女はしかし、悲劇のヒロインというには、あまりにもしたたかで、たくましい。そして必ずしも同情を誘うような人間でもない。浮気もする、行く先々で性懲りもなく恋もする。結婚もするが、結局夫も子供も20世紀の戦争の歴史の中で失う。
Forget everything, but forgive nothing.
彼女はHate Listというものを常に持っていて、大切な人を殺された復讐も全うしてしまう。恋もするけど、殺人もするという凄まじさ。決して、”あなたの気持ちもよくわかる・・・” なんてことにはならない。

本書はローズが自分の半生を本に記そうと自らの人生を振り返るという設定。
Don't hesitate to swim against the current. Only dead fish follow it.
Leave nothing in your glass, on your plate, or behind you.
Don't trust love; It's easy to see how to get into it, but not how to get out again.
A speech is like a woman's dress. It must be long enough to cover the subject and short enough to be interesting. Mine can be summed up in a single sentence; you only ever get the life you deserve.

随所で吐かれる人生座右の銘がいちいち怖い。愚痴を云う奴には我慢ならないローズ。これだけ強面でいながら、恋も忘れず女で通した人生。何でも、女は猿の子孫で、猿は男の子孫らしい。 個人的には、「 you only ever get the life you deserve」 が一番とどめのような気がするが・・・

巻末にはローズのレストランで供された料理のレシピ、そして20世紀の歴史を紐解くに役立つと思われる書籍のリストがある。ナチス時代に一番重点が置かれている分、その後の人生の描き方や、終わり方が物足りないし、どんでん返しというものもない。Franz-Olivier Giesbert はフランスのジャーナリストだそうで、云われてみると、小説と呼ぶには若干詰めの甘さが気になるが(50歳代位からいきなり100歳になっちゃうのよね・・・)、人が人を殺戮し続けた20世紀をこんな風に描くのはジャーナリストならではなのかもしれない (しかもフランス人だから、美食付き!)。巻末のレシピは、そこまで期待はできないが、写真があるわけではないので、随所に現れる料理は日本人にはちと馴染みがなく、そこもちょいと残念。
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[C457]

ぽちりました。
  • 2015-10-27 00:11
  • さかい@多言語多読
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[C458] Re: タイトルなし

> ぽちりました。
手放しで褒めていないんですが、ポチりましたか・・・


でも総じて読みやすいし、各章が短めで飽きずに読めるのでPBに挑戦したい方にもお薦め。100歳シリーズでいけば、「The 100-Year-Old Man Who Climbed Out the Window and Disappeared」 の方が面白かったかも。

そういえば、ローズがずっと一緒に過ごした友(ペットではない!)がSalamanderなのですが、邦訳はどうも山椒魚と訳しているらしいです。山椒魚が○かどうかはさておき、私は頭の中ではずっとトカゲで通してみた。
  • 2015-10-29 21:40
  • Green
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Green

Author:Green
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