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やし酒飲み

初アフリカ。私が買ったのは、持ち運びを重視して岩波の文庫だが、単行本(↓)の表紙は捨てがたいほど素敵だった。
4003280113やし酒飲み (岩波文庫)
エイモス・チュツオーラ 土屋 哲
岩波書店 2012-10-17

by G-Tools

4794924437やし酒飲み
エイモス・チュツオーラ 土屋 哲
晶文社 1970-11

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エイモス・チュツオーラは1920年、ナイジェリアのアベオクタという町で、ヨルバ人の両親の元に生まれる。両親はともにココア園の農夫でありキリスト教徒だったという。正式に文学を学んだわけでもなく、正規の教育も途中で断念した彼は、この『やし酒飲み』も仕事の合間にささっと書き上げたらしい。ロンドンの出版社に持ち込まれた彼の作品は西欧社会で注目され、その後国際的にも有名な作家となった。だが、母国ナイジェリアでの評判は芳しくないどころか、厳しい批判を受け、その理由というのが、チュツオーラの使う「怪しい英語」とプリミティヴなスタイルが、「アフリカの後進性」という西洋の固定観念を促進すると思われたからだった(wiki)

邦訳しか読んでいないので、”怪しい英語”の怪しさはちょっとわからないが、あとの解説で多和田葉子さんもおっしゃるように、”正しく正統に”外国語を学んだネイティブでない人にとって、彼のような自由自在な言葉の操り方は許しがたいもの、決して知的で洗練されたものとは云い難いのかも知れない。アメリカやイギリスで評価されるのは、ネイティブであるが故の思い込みを破ってくれる斬新さとでもいうのだろう。フランス語版は、あのレーモン・クノーが訳したというから、魔術的な魅力はストーリーだけでなく、操る言葉にもきっと現われているんだろう。

「わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった」―。やし酒を飲むことしか能のない男が、死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る。旅路で出会う、頭ガイ骨だけの紳士、幻の人質、親指から生まれ出た強力の子…。神話的想像力が豊かに息づく、アフリカ文学の最高傑作。

簡単に云えば、アフリカ版マジックリアリズムなのだが、ラテンのそれと比べると、底抜けの明るさではなく不気味でありながら、文体はこれ全篇のほほんとした下手ウマ風。「頭蓋骨だけの奇妙な生き物」「指から生まれた凶暴な赤ん坊」等々、多くの奇妙でグロテスクで奇奇怪怪な魔物が生きた人間に襲い掛かる、それを潜り抜けて生き延びるという冒険談だが、そもそも10歳から酒を飲むことしかしなかった子供に、親が専属のやし酒作り名人をあてがうという出だしから、もう私の常識は通用しなくなっている。神話や民話を題材にとるのは珍しくないが、エイモス・チュツオーラの生きてきた世界は、「生者の住む場所」=「集落」、「死者や魔物の住む場所」=「森」なのだそう。キリスト教的世界観から完全に外れているところは、八百万の神様の国も同じで、森に精霊は宿るし、地球の反対側のラテンのかっ飛び方だって楽しかった。エイモス・チュツオーラは、私にとっては初めて出会う異質なものだ。正義感覚の違いなんだろうか?道徳観念の違いなんだろうか?死者の町から故郷にもどってきた私を待っていたのは、神様同士の喧嘩のツケで旱魃に見舞われ、飢餓に苦しむ村人の姿だった。望みのものは何でも出してくれる魔法の卵で、食べるものからお金まで何でも魔法で片付けた果てに、割れてしまう卵。このエンディングをどう解釈すればよいかはさておき、なぜ最後がこれなんだ?どうしてこれで終わりにしたんだ?職業として作家になる気はあまりなかったというエイモス・チュツオーラ氏。西欧が「アフリカ最初の本格小説と激賞」しようが、彼の意図や意思は何だか全然別の次元にあるような気がしてならないんだが。
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