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ブリキの太鼓

年明けから延々とダラダラと「ブリキの太鼓」を読んでいた。河出書房新社の池澤夏樹=個人編集世界文学全集は池内紀訳だったが、あの本を通勤で運び続ける気概がなく、3分割された集英社の文庫版で妥協した。ギュンター・グラスを読むのは初めてだ(家に「女ねずみ」があった気がするが・・・)。そのギュンター・グラス、1999年にノーベル文学賞を受賞し、その後、自伝的作品『玉ねぎの皮をむきながら』で、ナチの武装親衛隊であったことを告白して、大波紋を呼ぶ、と、私の知識はそこまで。政治色の強そうな印象があるので避けていたが、最近どこかで登場したので、重い腰をあげてみた。
4087529169ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』全3巻 (集英社文庫)
ギュンター・グラス 高本 研一
集英社 2012-02-01

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映画になった『ブリキの太鼓』は見た記憶がある。いつだったんだろう?と調べたら、高校生だった。記憶というほど残っていない。太鼓叩きのオスカル、成長を止めしかし、中身は大人の彼の眼から見た戦中戦後のポーランド。原作はやはり映画にならなかった部分がある。ある時を境に再び成長することを決心したオスカルが、戦後精神病院に収容され、そこで看護師を相手に自分の過去を話して聞かせるという設定で、成長を開始した後の話も1/3にわたってある。戦前から戦後にかけて、彼が30歳を迎える日まで、実は物語は続いていた。

非現実的なエピソードが並び、ドイツとポーランドの史実は直接的には描かれていない。それなのに、気持ち悪いほどリアリティーがある。語り手はオスカルだ、そして舞台となったポーランドの街、ダンツィヒ(現在のポーランド領ダグニスク)やそこの人々の描写も病的なまでに細部にわたる。語り手オスカルは、”ぼく” と ”オスカル” を使い分け、その二重性は読んでいると平衡感覚がくずれていくような気持ち悪さがある。大人になることを拒否した大人、オスカル。ブリキ太鼓を叩きながら、呆れる位饒舌だが、その実、その内容は大したものではない(子供のそれとでも云おうか?)

猥雑さやグロテスクさは満載なのだが、それらは不思議にも目を背けてしまいたくなるようなものではなく、それどころか見入って引き込まれてしまう。大人になることを決心して成長を始めたオスカルだが、彼は所謂健常者的な身体を獲得できず背中にこぶを背負う大人になった。冷酷な悪魔のような精神を持ち、回りの人間を死にも追いやるオスカル、自分は特別な存在であるという自意識過剰さ、醜悪でありその狂気性は異常だ。肉体的にも精神的にも不具者。何もかもがネガティブでありながら、なのに純粋さ(こんな言葉でよいのか?)感じてしまう自分に驚く。

ギュンター・グラスが自らをオスカルに投影させて、自らの罪と許しを描いたというには、やや安直にも思える。ナチ時代を扱った小説はそれこそ星の数ほどあるが、ナチの極悪非道ではなく、その時代にそこに生きた人たちの狂気こそが本当は怖かったのだろうし、ギュンター・グラス自身もそれを一生抱えて生きていたのだろう。

20世紀を代表すると銘打った小説はいくつかあるのだろうが、今現在私にとってはこれこそが20世紀の小説だと確信している。
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