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時の止まった小さな町

「剃髪式」の続編にて、おそらく完結篇。「剃髪式」で中心となったフラバルの両親に代わり、少年フラバル視点で描かれる愛する故郷の町の物語。
4879843407時の止まった小さな町 (フラバル・コレクション)
ボフミル フラバル 平野 清美
松籟社 2015-12-10

by G-Tools

戦争がはじまり、祖国が消えた。戦争がおわり、新しいかたちの国ができた。ボヘミア地方の小さな町とビール醸造所でも、また別の新しい時代が始まる。しかしそこには、古い時への鍵しか持たず、新しい時代には入れない人々も、また…コレクション前作『剃髪式』のその後を描く、ノスタルジックな佳品。

お転婆な母マリシュカはぐっと出番を少なくし、堅物の父フランツィンと法螺吹きのぺピンおじさんを中心に描かれる後日談。ユーモア度数は「剃髪式」の方が上だが、胸につまされるエンディングを読むと、ノスタルジックな佳品の意味がよくわかる。ほとんどはおかしなぺピンおじさんと、兄弟であり相棒の父フランツィンの掛け合い漫才なのだが、この最後のエンディングで作品の印象は180度ひっくり返る。

”戦争がはじまり、祖国が消えた。戦争がおわり、新しいかたちの国ができた”
作品の中でその戦争と、つまりナチと、戦後支配することになったソ連の描写は日常に紛れて描かれる。当たり前だけれど日常は戦中も戦後も1日で180度変わるわけではないが、少しずつ少しずつ日常を侵食する。当たり前のようなはしゃぎっぷりがふと気づくと、置いてきぼりを喰らい、取り残されている。

フラバルは故郷の町では有名な作家なのだそうだが、故郷へは長いこと帰っていないらしい。巻末の訳者あとがきは、ボヘミア地方のヌィムブルク訪問記となっていて、舞台となったビール醸造所ももちろん訪ねている。帰れないのだろうなあ。自分しか開けることのできない古い時代の鍵を、もう開けることもないのかもしれない。語りはフラバル自身なのだろうが、後半になると少年フラバルは鳴りを潜め、第三者のような様相を呈してくる。フラバル自身は本人が望もうが望まなかろうが、新しい時代に移行できてしまったのかもしれない。でも古い時代も見えてしまう。その狭間にいる辛さが後半のやや無口なフラバルなのだろうか?

フラバルは刊行されれば読んできた。暗くてグロテスクなユーモアばかりが強かった最初の印象は最近の2冊でだいぶ違ってきた。
『あまりにも騒がしい孤独』
『わたしは英国王に給仕した』
『厳重に監視された列車』
『剃髪式』

チェコ、と一口に云ってしまうことは、さすがに抵抗がある。国境がこれほど意味を持たない国があるだろうか?過去の歴史は常に他民族との混合、統合と解体の歴史だった。フラバルはボヘミア地方の出身だが、たぶんチェコの国民はチェコ人ではなく、ボヘミアやモラビアや、もしかするともっと細かい町や村や民族そのものが、自分の故郷だという強い意識があるのかもしれない。Wikiには、「前近代よりフス戦争などの熾烈な宗教戦争が戦われてきたチェコでは、その複雑な歴史的経緯から無宗教者が多く、60%がこのグループに属する」とある。キリスト教圏だとばかり勝手に思っていただけにちょっとショックだ。
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