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図書館大戦争

新刊書店にも並ぶほどの新しさ。表紙はツヤツヤ紙で私好みではない。ロシア・ブッカー賞受賞作品だそう(ロシア・ブッカー賞というものがあったんだ!)。でも図書館という言葉にはちょっと惹かれる。ミハイル エリザーロフ は、1973年ウクライナ生まれというから、若い作家。
4309206921図書館大戦争
ミハイル エリザーロフ 北川 和美
河出書房新社 2015-11-26

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紹介はアマゾンから・・・
秘密の力を持つ7つの本をめぐり、図書館・読書室の暗闘がはじまる。

叔父の遺産を処分するため、青年アレクセイはウクライナからロシアに向かう。そこで出会ったのは、亡き叔父を司書とする「シローニン読書室」の面々だった。
忘れられた社会主義時代の作家グロモフの7つの本(「記憶」「力」「喜び」「忍耐」「権力」「憤怒」「意味」)。恐るべき力を秘めたこれらの本を、「図書館」・「読書室」が血で血を洗う決闘によって奪い合う。
知略に富んだ慈悲深きマルガリータ、鎖分銅の使い手チモフェイ、長剣の名手ターニャ、ルーブル硬貨で鎧を仕立てるグリーシャ……。古強者揃いのシローニン読書室は、やがて強大な「図書館」との抗争に巻き込まれていく。
ソ連崩壊後の世界に生きるひとびとを活写した驚異のスプラッターノヴェルとして、賛否両論ありながらロシアブッカー賞を受賞した問題作、ついに邦訳なる! ! !


作家グロモフの7つの本(「記憶」「力」「喜び」「忍耐」「権力」「憤怒」「意味」)は、連続し集中して読むと、読んだ人に不思議な作用を与えるという奇書で、これを奪い合うため、武装した各図書館や読書室が、血みどろの戦いを繰り広げる。武器が農耕器具や編み針だったりするところが、どうにもご愛敬だが、戦闘シーンや戦いに敗れ死んでいく人間の描き方がグロテスクというより、ゾンビ映画のようで、凄惨というより現代っ子らしくスマホゲームのそれに近い(あまり痛そうではない・・・・)。序盤の奇書をめぐる各図書館の成立過程やらはなかなか面白くて後半に期待したが、派手な演出が続く後半はちょっと飽きる。一応主人公らしいアレクセイ君は、軟弱で意思が弱く人の云うまま、流れに身を任せるタイプなのだが、彼の亡き叔父さんというのが、グロモフ界では伝説の人物らしく、叔父さんの後光を借りて、重要人物として祭り上げられていき、本人もその気になっていくところが、これまた現代っ子っぽい。武装集団が老婆ばっかり(が、最強の老婆たちなのだ!)というのも、この本ファンタジーなんだが、暗黒ものなのか、ただ笑いを取りたかったのかは謎だな。が、喰わず嫌いのロシア本で、登場人物も多いながら、あまり混乱せずこの分量を読み切らせてくれる手腕は◎。

図書館にせよ読書室にせよ、所謂カルト集団の体なのだが、奇書の作者グロモフは、社会主義リアリズムに基づいて教条的な作品を書いていた地味な作家という設定で、ソ連崩壊後世の中からは忘れ去られた存在だった。それが一部の狂信的信者にとっては、旧ソ連の理想郷の情景だったらしい。そして貧相で惨めな生活を送る青年アレクセイは、つまり現代ロシアの象徴的存在として描かれる。

これは日本人である私の勝手な思込と刷り込みだったと思ったのは、旧ソ連/社会主義=悪という図式。この20-30年でソ連を含む東欧諸国の多くが、昔の社会主義体制の殻を破った。私に聞こえてくるのは、当時の思想統制や秘密警察や、そういう負の面ばかりで、そこに暮らす人々の中に昔を懐かしんだり、弱肉強食な資本主義(自由という得体のしれない名のもと)を疎ましく思うものがいても、不思議ではない。社会主義という信仰対象がなくなった今、代わりに昔の本の中に郷愁を探し、現実逃避を図る。郷愁は決して実像ではなく、それはきっと想像の中で理想化されたものになっているのだろうが、旧ソ連時代に子供時代を送り、質素だが陽気で労働する喜びとともに日々を送っていたとしたら、大人になって今のロシアの中に将来への希望は見いだせないのかもしれない。ロシアに住む人だって同じ人間だよね。。。当たり前だがそんな現代っ子のロシア人に叫びの本だった。
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コメント

[C467]

新聞の書評で知って図書館で借りて読んだのですが、面白いけれどかなり読後感が悪い作品でした。嘗てのソビエト時代への回帰を示唆するようなこの小説がベストセラーになるというのが、ある意味現代ロシアの世情を表わしているような気がします。それは日本でもまた似たような事が言えるのですが。
Greenさんも書かれている通り、貧困層にとってはソ連時代の方が連邦崩壊後の混乱よりはるかに良かった訳で、彼らにとっては正に「記憶の書」を読んで得られる偽の思い出は素晴らしいものなのでしょう。グロモフ界はGreenさんもご指摘の通りカルトそのものなのですが、現実世界のロシアでオウム真理教が信者を増やしているのも、同じような理屈なのでしょうね。
  • 2016-03-31 00:07
  • X^2
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[C468] Re: タイトルなし

こんにちは。

読後が悪いというのはわかります。面白い作品ではありますが、個人的には好きなタイプの本ではないですね。
ただ、旧ソ連というのは超大国だったので、東欧諸国が一種の被害者として文学に登場することはあっても、逆の立場にあった国の事は考えたことがなかったので、気づけば当たり前のことなのに、自分にとってはそれがショックでした。平和ボケといわれればそれまでですが、宗教であろうと何がしかの信仰であろうと、何かすがるものが必要な気持ちは実感が沸かないというのが、正直なところです。

  • 2016-04-03 19:55
  • Green
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Author:Green
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