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ポーランド旅行

Alfred Döblinといえば、「ベルリン・アレクサンダー広場」。20世紀前半の前衛文学の伝説的名作が復活し、現在お金さえ出せば入手可能だが、¥5,000というお値段に怖気て未だ眺めているだけ。ということで、こんなものから始めてみた。ポーランド生まれ、ドイツ系ユダヤ人の彼が、1924年秋にポーランドを訪れた際の旅行記だ。プロイセンのシュテッティン(現ポーランド領)に生まれた彼は、ユダヤ人であることを意識せずして成長した。そんな彼のポーランド旅行は、ユダヤ人としての出自を求める旅だと云っていい。
4862650902ポーランド旅行
アルフレート デーブリーン Alfred D¨oblin
鳥影社ロゴス企画 2007-10

by G-Tools

18世紀末から120年間、ロシア、ドイツ、オーストリアの強国に繰り返し分割され、一時は地図上から姿を消すかつての大国ポーランド。だが第一次大戦でこの列強3国が揃って崩壊すると、ポーランドは再び独立を果たす。が、それもつかの間、ナチスドイツに侵攻され、第二次大戦後はソ連の傘下に入る。20世紀も終わりに近くなり、自由化うねりの中で再び独立を果たす。デーブリーンがポーランドを訪れたのは、第一大戦後の独立を果たした後だったが、今から思うと砂上の楼閣のような独立国家だったことになる。

デーブリーン自身はドイツのドイツ化されたユダヤ人で、ドイツでは見ることのできないユダヤ人の姿をポーランドで知り、驚愕する。古来の伝統を守り、ユダヤの教義を伝え、それは ”何か先祖帰りしたようなもの” で ”この民族の太古の表象が現出したもの” ではないかと考える。1924年当時、世界のユダヤ人口は約1500万人弱で、そのうち350万人がポーランドに住んでいた。ちなみにドイツには約70万人がいた。ポーランドは、ユダヤ文化が最も花開いた土地だった。そしてその9割にあたる300万人が第二次大戦のナチスにより虐殺された。それはつまり、ポーランドのユダヤ人文化が崩壊し、死滅し、この世から抹殺されたことを意味する。本書の学術的な価値は、この消滅した文化を詳細に残してくれたことにあるという。それにしても、知っている気になっていたポーランドにおけるホロコーストというものが、その規模を数値で突きつけられた瞬間、愕然とした。野生の動植物の絶滅危惧種だってこの規模で絶滅しないだろうに、人間が人間を絶滅させた。

周囲の列強から、分割され続けたポーランドという国はしかし、独立を果たすないなや、今度は、リトアニア、ウクライナの領地を奪おうとする。ポーランド人 vs. ドイツ人 vs. ウクライナ人 vs. ユダヤ人がひしめき合い、やられたらやり返すような抑圧と屈折とが交錯する。

国境を定めているのは、「専制的権力」であり、そこに見えるのは民族主義の横暴なのだ

私は「歴史」がどのように教えられるのかを知っている。そこでは誇大妄想が無知と結び合わされるのだ。私は「自由」がどのように教えられるのかを知っている。隣国に対する憎悪をもって教えられるのだ。民族主義とは民族的喪心状態に他ならない。けれども、「民族」、「国家」を問わない宗教がまだ存在し、別の共同体をもっている。これらの民族は盲目となり、質の悪い誇張をし、身勝手な見解に立っているが、皆同じ西欧的富を追求している。しかし民族以外にもまだ別の共同体があるのだ。私はそのことを忘れたくないし、忘れることはないだろう。民族共同体というものをよく吟味もせずに、あらゆるものの上に据えるということは、あつかましい不遜だ。

我々が民族とその国土を愛するのは、その価値ゆえだ。西欧や東欧の政府がその臣民である民衆に要求する愛国心は野蛮だ。現代の国家は偶然の所産にすぎず、合目的的にできたものではない。

今、彼らは国家を持っている。だが、それが彼らの民族性の中に毒を持ち込んでいる。国境が彼らに反撃を加えているのだ。彼らは一線を越えてしまった。あたかも、権力を握った瞬間に、革命家が暴君になるように、彼らが抑圧されていた間も、人々の生活が続いていたこと、国境の向こうで、あらゆる方面で、そして彼らの間にあっても、諸民族が暮らし、生活し続けていることが、彼らにはわかっていないのだ。 

デーブリーンの言葉を拾い上げているときりがない。最後になって帯の言葉に気づいた。
長年にわたる他国の支配を脱し、独立国家の夢を果たしたポーランドのありのままの姿を探ろうとする作家の眼。我々は80年前よりましな世界に立っているのだろうか?民族と国家の問題を問う古びない本。単なる旅行記を超える傑作。

80年前よりましな世界・・・ 痛い言葉だ。
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