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失われた足跡

新幹線事件に巻き込まれ、読み直しを余儀なくされた後、やっと完読。
Alejo Carpentier って何読んでいたんだろうと、自分のブログを振り返る。
「この世の王国」
「バロック協奏曲」
「ハープと影」
ラテン文学多々あれど、何だか未だつかみどころのないようなCarpentier。

4087602370失われた足跡 (集英社文庫―ラテンアメリカの文学)
カルペンティエル Alejo Carpentier
集英社 1994-07

by G-Tools

大都会で虚しい日々を過ごしている音楽家が、恩師からインディオの幻の原始楽器を探しに行くよう依頼され、オリノコ川上流へと旅立つ。大河を舟で遡る空間の旅は、20世紀の都会から中世風の町へ、さらには旧石器時代にも等しい集落へと時間を遡る旅でもあった。《魔術的リアリズム》の創始者の一人カルペンティエル(1904―1980)の代表作。

これは勝手な言い分だけれど、ラテン文学、マジックリアリズムなんて言葉に踊らされて、南米ものを読むときはそんなものばかりを期待してしまうが、これはちょっと違う。大都会(おそらくNew York)で暮らす音楽家は、いかにも現代らしい倦怠感と喪失感の中にいる。仕事もパッとせず、女優業の妻ともすれ違いの生活。そして妻がいながら愛人をもつ(おそらく、好きでもなんでもない)。その愛人もちょっとバカ女だったりする。南米への旅は都会から来た者にはとても耐えきれないほどの自然との格闘だが、その愛人は都会の常識をそのまま持ち込み耐えられなくなり、男はそもそもたいして好きでもなかった女の嫌な面ばかりが目に付くようになり、愛想を尽かす。愛想を尽かす気持ちはよーくわかるが、男の言い分も相当に勝手なもんで、原住民の女の子を好きになり、愛人はとっとと追い返し、そのインディオの娘と仲良くさらに奥へと進んでいく。そういう音楽家の男も、アマゾンの原始の世界に感化され、インスピレーションが湧くのだが、書き留める紙がないと騒ぐ。音楽を書き留めるという行為も、インディオたちには理解できない行為だ。どこまでいっても都会からの侵略者。結局、救護隊に発見された男は元の街に戻り、妻とは離婚し再びアマゾンを目指すが、再び訪れたその地からは以前辿った痕跡が消えている(これが、「失われた足跡」か・・・)

こんなソープドラマみたいなことばかり書いていると、ソープドラマだと思われるが、随所随所に、色鮮やかで芳醇な森が描写され、音楽への造詣が深いカルペンティエルは、それに音とリズムが加わる。この音とリズムが加わるのはカルペンティエルならではだろう。

が、土着の香漂う太古のロマンを期待するとそれは違う。これは異邦人が見た神話の世界なんだろう。それはキューバで生まれながら、パリへ亡命したカルペンティエルの二面性なのかもしれない。彼自身もそんな二面性を感じていたのか?旧大陸では見ることもできないような風景や景観、想像を絶する自然、素朴な暮らし、神話世界のようなそこは、現代人には魅力的ではあっても、そこに根を下ろして暮らすことはできない。何もないはずの土地にも、都会から来た先行者が作り上げている町があり、結局文明に侵されれていない楽園というのは、文明社会から見ると幻想であり、本当の楽園は楽園だという意識もなくそこに暮らす人たちにしか、開かれないのかもしれない。
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